プロジェクト結の活動は、ボランティアの方々に支えられている。CSR(企業の社会的貢献)や人材育成の一環として企業から派遣された参加者もいるけれど、学生をはじめ、個人として参加している人々も多くいる。子供たちの心のケアを対象としているので、最短で1週間というボランティア活動としては長期となる滞在が基本だ。このため、社会人、特に企業に務める参加者にはハードルが高い。それでも、休暇取得が困難にも関わらず、参加していただける。本当に頭が下がる思いだ。

 ただ、中には会社には内緒の参加者もいる。社内制度でボランティア休暇を認めていても、職場の雰囲気を気にしてか、別の用事という名目で休暇を取得している方々だ。とても想いが強く、行動力のある皆さんだなぁと思う一方で、すごく残念な気持ちにもなる。「せっかく良いことをしているのに、黙って、嘘をついて参加しなければならないという現実があるのか…」と思うからだ。

 本当に職場の雰囲気が悪くなるのかどうかは分からない。ただ、実際、会社に内緒で参加する方々は少なくないのだ。その前の段階として、ボランティアに足を運ぶ行動を諦めてしまう人は、きっとさらに多いのだろう。一人ひとりができることは小さいけれど、活動を通して生まれた人と人の結び付きが活動の継続につながっていく。それが、本当の意味での成果に現れてくる。せっかくの機会がもったいないと感じざるを得ない。

 震災発生直後は、とにかく現地に人を送りこんで、瓦礫処理や炊き出しなど、専門性を必要としないボランティアが求められた。だが、2年近くが経過し、そうしたボランティア活動は一段落し、支援活動は踊り場に差し掛かっている。当初は積極的だった企業も、どのような支援をすればいいか悩んでいるケースが多いようだ。

 実は、今こそ企業が保有する専門性の高い人材による支援が必要な時期に差し掛かっている。だからこそ、職場には内緒でボランティア活動に参加しなければならない現状はもったいないと思うのだ。被災地では、復興に向けて多くの専門人材を求めているからである。その活動は必ず人材の成長を促し、CSR活動だけではなく、企業の本業にもプラスに働くことになると思うのだ。

思いもよらなかったステージに立つ僕

 ――そして、僕は今、宮城県仙台市で生活しています。所属するメーカーから出向した復興庁の政策調査官として。

 1年前どころか、ほんの数カ月前までは、思いもよらなかったステージに僕は立っています。そのきっかけは、ほんの出来心で長尾氏に送信した1通のメールでした。

 この行動が、正解だったのかどうかは分かりません。サッカーが好きな僕が勝手に思い描いていた未来設計では、ブラジルに赴任して、2年後のサッカーW杯と、4年後のリオデジャネイロ五輪が巻き起こすであろう特需と社会イノベーションの真っただ中に身を投じるはずだったんですが…。

 ただ、選択が間違いだったとは思いません。活動を通して多くの人と出合い、多くのことを学んでいるという実感があるからです。今はとにかく、ただ前へ進むだけです。

 あなたも、自分の直感を信じ、出来心に身を任せて小さな1歩を踏み出してみませんか? 正解の行動かどうかは保証できません。でも、きっと面白いステージが待ち構えているはずですよ。

 復興庁の職員としての奮闘記は、またの機会に。

(この項、終わり)