省エネ家電への買い替えを促進する「家電エコポイント制度」のように国や自治体が主体になる場合は税金でコストを賄うことが可能である。ただし最近の流れでは、税金を極力使わず、参加することに意味を感じる企業に協力してもらうという例が増えている。

 例えば東京都や京都府は、市民や中小事業者の二酸化炭素(CO2)排出量の削減行動に対し、ポイント(クレジット)を付与する制度を創設した。このポイントの原資には税金を使っていない。地域内に大規模な事業所を構える企業にクレジットを購入してもらうことで賄う方針だ。企業は自治体に対してCO2排出量を公表しなければならず、削減要請を受ける立場にある。つまり、規制的な裏づけを背景にしたものと言える。

 愛知県豊田市では、トヨタ自動車とデンソーなどが主体となり、蓄電池付きのHEMSを導入した67世帯で、デマンドレスポンス(需要応答)の実証を続けている。対象世帯全体の電力需要が少ない昼間に電気を使った場合、ポイントを付与し、全体の電力需要が多い夕刻に電気を使うと「マイナスポイント」が付く。プラスのポイントが付けば電気代が下がり、マイナスポイントでは逆に電気代が上がる。

 ポイントの水準は、天気予報に基づく電力需要予測の結果で決めて、前日の正午に周知する。その結果、昼間に夕飯の準備を済ませたり、掃除や洗濯したりするなど、需要の平準化がかなり進んだという。「マイナスポイント」という概念を導入することで、電力使用者からお金を集められるので、うまく運用すれば「ポイント原資の壁」が解消する可能性がある。

 一般には、電力の供給事業者がポイント原資の出し手になる可能性が最も高い。2011年夏にNTTファシリティーズは、約3000世帯のマンション住人を対象として「デマンドレスポンスサービス」を実施した。電力需給が逼迫した際、電力使用を抑制してくれた家庭に対してポイントを付与するというサービスである。これによって35~40%の需要抑制を実現した。

図2●NTTファシリティーズのデマンドレスポンスサービスのイメージ
図2●NTTファシリティーズのデマンドレスポンスサービスのイメージ
(出所:NTTファシリティーズ)

 ポイント原資は、NTTファシリティーズが負担したが、実は同社にとっても経済的なメリットがあった。NTTファシリティーズは新電力のエネットとマンションへの一括受電契約を結んでいる。NTTファシリティーズがエネットから業務用の安い料金単価で一括して電力を購入し、マンションの各世帯に配電している。エネットとNTTファシリティーズの契約では、事前に決めた電力需要を超えてしまうと、NTTファシリティーズがエネットに対してペナルティーを支払う必要がある。デマンドレスポンスサービスによって、そのリスクを大幅に減らせたのだ。

広告をからめたモデルも登場

 加えて2012年夏には、流通企業と連携したユニークなデマンドレスポンスサービスの試みも出てきた。電力取引やマネジメントを手掛けるエナリス(東京都足立区)が商品化した「エスコート」である。仕組みは次の通りだ。

 まず、スマートフォン(スマホ)のユーザーがエスコートに会員登録する。電力会社から需要抑制の要請がくると、スマホに外部イベント(流通店舗)への勧誘情報を流す。その勧誘に応じてユーザーがイベントに訪れ、スマホ内蔵のカメラをかざすとポイントがもらえる。外出すれば、当然、そのユーザーが住む家の電力消費量は下がる。ポイント原資はイベント主催者や流通企業が負担する。来客数の増加によって売り上げ増が期待できるからだ。

 すでにデマンドレスポンスサービスが一般化している米国では、電力会社からの要請を受けて、多くの需要家に電力使用の抑制を促すアグリゲーター事業というビジネスが立ち上がっている。この場合は、需要を抑制したい電力会社がデマンドレスポンスを促す原資を負担している。さらに消費者向けの省エネ支援サービスでは、料金通知書などへの広告収入をポイント原資に使うビジネスモデルも検討されているという。

 前述したスマートプロジェクトの「家庭の節電行動2012」プロジェクトで企業から無償提供された景品は、省エネ関連製品が多い。同プロジェクトのウェブサイトに景品が写真入りで掲載されるなど、提供した企業はこうした告知効果を多少なりとも狙っているのは明らかだろう。つまり、広告を含んだビジネスモデルとも言える。

 このようにデマンドレスポンスや節電を促すインセンティブサービスでは、消費者の節電行動を促すポイント(経済価値)のコストを負担できる受益者をいかに探し出すかがカギになる。これまでなかったような組み合わせがまだまだあり得ることから、工夫の余地は多い。アイデア次第で様々なビジネスモデルが登場することになりそうだ。

この記事は日本経済新聞電子版日経BPクリーンテック研究所のコラム「クリーンテック最前線」から転載したものです。