夏の電力不足は、もはや常態化したと言っていいだろう。日本は以前から「省エネ」に取り組んできているが、それをさらに深化させる必要性に迫られている。中でも今、課題になっているのは、一般家庭にどうやって節電や最大電力需要のシフト(ピークシフト)に取り組んでもらうかである。

 大口の電力需要家である工場や業務ビルなどの場合、政府や自治体が規制によって節電やピークシフトを促すという方法をとることができる。しかし一般家庭は「政策的に節電やピークシフトを実施してもらうことが難しく、効果が読めない」(経済産業省・省エネルギー推進課)からである。

 規制という直接的な手段がとりにくい以上、できるだけ効果の高い間接策を探すしかない。そこで、ハウスメーカーが積極展開しているHEMS(住宅エネルギー管理システム)によって家庭内の電力消費量を「見える化」して消費者の意識を高めたり、電力料金の値上げ(時間帯別料金制度)によって節電やピークシフトを促したりする方法が検討され始めた。

 そしてこれらに加え、このところ「手軽で効果が高い」と注目されているのが、さまざまなインセンティブ(行動を促す動機づけ)を提供する方法である。具体的には、一定以上の省エネに成功したりピークシフトしたりした場合に経済価値のあるポイントなどを付与する。自治体などがこうした方法を相次ぎ導入し、成果を上げ始めた。

景品がもらえる

 インセンティブを提供することで成果をあげた好例が、2011年夏に国内初の大規模な試みとして展開された(現在は終了)、「家庭の節電宣言」というプロジェクトだ。経済産業省が東京電力・東北電力管内で実施した。経産省が開設したウェブサイトに一般消費者が登録して「節電宣言」し、2010年比で電力消費量の15%減に成功すればプロジェクトへの協賛企業が提供した商品券などの景品をもらえるという仕組みだ。節電宣言した約7万世帯のうち、約半数が15%減を達成した。

 2012年夏は「家庭の節電行動2012」と銘打って、民間企業が主体となってほぼ同様の試みが始まっている。社団法人であるスマートプロジェクト(東京都渋谷区)が、東電管内で2010年比10%以上、関電管内では2011年比15%以上の削減を達成した場合、抽選で景品を送る(http://savepower.jpを参照)。景品は、JX日鉱日石エネルギーが家庭用燃料電池システム「エネファーム」など、JTBが旅行券、LIXILが防音・断熱内窓を無償で提供した。スマートプロジェクトの加藤敏春代表が、社会的な意義を説きつつ熱心に寄付を募ったという経緯がある。

原資は誰が負担?

 インセンティブ制度はほかの方法に比べると設備もいらず手軽に始められるが、最大の課題はインセンティブとなるポイントや景品のコストを誰が負担するのかという点だ。

図1●自治体によるインセンティブサービスの代表的な仕組み
図1●自治体によるインセンティブサービスの代表的な仕組み
(出所:京都環境行動促進協議会)