「『●●工場については譲渡や集約を検討』と配布資料にはありますが、これは譲渡や集約をせずに操業を続ける可能性も残されているという意味でしょうか?」

 ルネサス エレクトロニクスは2012年7月上旬に緊急記者会見を開き、国内工場と人員の削減を中心とするリストラ計画を発表しました。今後3年以内に、国内工場をほぼ半減すると共に、1万人超の人員を削減するという、かつてない大規模なリストラです。この記者会見と、同社が8月上旬に催した決算会見には多くの報道関係者が詰め掛けました。それらの会見では、冒頭に示したような、個別の工場に関する質問が相次ぎました。ルネサスのリストラ計画が、地域経済に与える影響の大きさを強く感じさせられた次第です。

 同じ時期、ルネサスの発表とは対照的といえるニュースが業界を駆け巡りました。半導体露光装置最大手のオランダASML社が2012年7月に、450mmウエハーやEUV(extreme ultraviolet)露光といった次世代技術に対応する装置の開発を、半導体メーカーから総額約1300億円の支援を受けて進めると発表したのです。これと併せて、同社株式の最大25%を半導体メーカー向けに新規発行し、資本参加を受け入れるという計画を明らかにしました。

 この発表と同時に明らかにされたのが、世界最大の半導体メーカーである米Intel社による支援と資本参加です。ASML社の株式の15%(約2400億円相当)をIntel社が取得すると共に、研究開発費として約800億円を支援するという内容です。続く2012年8月には、ファウンドリー業界最大手の台湾TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Co., Ltd.)がASML社の支援に名乗りを挙げました。ASML社の株式の5%(約800億円相当)を取得し、併せて研究開発費として約270億円を支援する計画です。

 これらの2社に続いて、韓国Samsung Electronics社もASML社の支援に動くのではないかと噂されています。また、Intel社は露光装置大手のニコンに対しても、450mmウエハー対応に向けた研究開発費を支援すると報道されました。半導体メーカーの“ビッグ3”ともいうべきこれら3社と、先端SoC工場の売却を余儀なくされたルネサス。ほぼ同時期の発表だったこともあり、両者のコントラストが鮮明に感じられました。

 Intel社やTSMCの今回の動きによって、450mmウエハー対応装置の開発は大きく動き出しそうです。これまで装置メーカー各社は、450mmウエハーへの対応には消極的でした。“ビッグ3”あるいは“ビッグ5”くらいの半導体メーカーにしか使ってもらえそうにない450mmウエハー対応装置の開発には、投資回収の面で大きなリスクを伴うからです。EUV露光装置の開発が技術的な難しさから遅れているのに対し、450mmウエハー対応装置は装置メーカーの“意思”が開発を進めにくくしてきたといえます。

 ところが今回の発表を受けて、「いよいよ450mmウエハーへの対応が本格的に始まるのではないか」(大手装置メーカーの幹部)との見方が強まっています。装置各社の最重要顧客たちが、開発に伴うリスクを分け持つ動きといえるからです。しかも、露光プロセスは半導体製造技術の要。露光装置が450mmウエハー対応にいち早く動けば、450mウエハーを用いた半導体の量産開始時期やそのころの技術世代が見えてきます。それによって、周辺プロセスの装置を手掛けるメーカーも450mmウエハー対応に動きやすくなる。こうして業界の足並みがそろう可能性が出てくるわけです。

 装置メーカーが研究開発段階で半導体メーカーの支援を仰ぐ事例は珍しくありませんが、今回のように資本参加を受け入れるというのは新しい動きといえます。まして、半導体露光装置で50%を大きく超える市場シェアを握るASML社に、少数の半導体メーカーが資本参加することのインパクトは大きいでしょう。次世代装置が、これら少数の半導体メーカーに優先的に供給される可能性を生むからです。

 ルネサスなどが軒並み微細化投資から撤退した今、日本国内でいずれ450mmウエハー対応に動くと予想されるのは、(経営破綻したエルピーダメモリを除けば)NANDフラッシュ・メモリ業界2位の東芝に絞られます。同社は現状では様子見のようですが、今後どのような動きを見せるかに注目したいと思います。

 最後に宣伝をお許しください。日経エレクトロニクスは2012年9月18日(火)に、Intel社やTSMCなどの幹部社員を招聘して、「半導体メジャー、2020年への成長戦略を語る ~Intel、TSMC、G450Cが語る、450mmウエハー、EUVリソグラフィ~」を開催します。2020年に向けた半導体製造技術の展望を、半導体メジャーたちに語ってもらいます。ぜひ足をお運びくださいましたら幸いです。また、ルネサスの経営危機とその背景、影響については、2012年8月20日号の本誌解説記事「ルネサスの危機は何を予見するのか」にまとめました。こちらもご一読いただけますと幸いです。