北九州プロジェクトでは、一般家庭200戸、事業所71カ所にスマートメーターを設置し、電力の需給状況に応じて電気料金を変動させるダイナミックプライシングを実施し、地域全体でエネルギーを効率よく利用することを目指している。夏の午後など、電力需要のピーク時に電気料金を上げることによって、家庭内における家電製品の使用を控えてもらう試みだが、望ましいのは家で電力を使わず、買い物などに外出してもらうことだ。そこで、需要ピーク時に地場商店への集客を促すために、タイムセール情報を提供する広告モデルを検討している。

米国では「広告は省エネサービスの一環」

 電力の需要家に対して利用状況の「見える化」をしたり、省エネ法のアドバイスを実施したりするサービスが既にスタートしている米国では、省エネ促進策としての広告にさらに磨きがかかりつつある。

 OPower社というエネルギーサービス事業者の例で見てみよう。同社は電力会社とパートナー契約を結び、電力の需要家向けに省エネ関連サービスを提供している。

図1●電力会社である米Connexus Energy社の顧客向けに米OPower社が送付した「Home Energy Reports」の例
(提供:米OPower社)

 具体的には、電子メールやウェブサイト、電話などを使って消費者に接触し、近隣の住宅と電力消費量を比べたり、季節によってどう電力消費量が変化しているかなどをきめ細かく消費者に伝えて成果を出し、ビジネスを拡大している。こうした省エネのコンサルティングの一環として、同社は家電製品の省エネ性の診断も実施している。性能の低いものは買い替えを促し、その際に近隣の量販店の商品情報を提供することによって量販店から収入を得るという枠組みをつくった。

 エネルギー分野における広告モデルとしては、米Google社が電力の見える化サービスで検討したものの挫折した経緯がある。その原因は、電力の需要家に対して導入のメリットを十分に示しきれず、個人情報保護の面でも理解を得られなかったからと考えられている。これに対して現在検討されている広告型サービスは、やり方によっては電力の需要家が大きな魅力を感じられるものだ。個人情報の利用についての理解をどう求めるかについても工夫を凝らし始めた。

 今後は、電力の使用履歴や嗜好といった消費行動のデータを大量に集めて、いわゆるビッグデータとして分析することで広告効果を高めるなど、スマートシティを舞台にした本格的な広告ビジネスモデルが確立されていくことだろう。

この記事は日本経済新聞電子版日経BPクリーンテック研究所のコラム「クリーンテック最前線」から転載したものです。