旧フランス租界にある上海有数の繁華街・淮海中路に2012年1月オープンしたアディダスの上海旗艦店。生産は撤退したが、市場としての中国について同社は極めて重視している。
旧フランス租界にある上海有数の繁華街・淮海中路に2012年1月オープンしたアディダスの上海旗艦店。生産は撤退したが、市場としての中国について同社は極めて重視している。
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 議論の一例を紹介すると、中国紙『中国証券報』(2012年8月7日付)は論評で、「広東省の珠江デルタ地帯に拠点を置く製造業が直面している状況は、彼らがこれまでに何度か遭遇してきた『倒産ブーム』とは完全に内容が異なる」と指摘。「仮に経済が好転しても、これら企業が操業を回復したり、生産規模を拡大したりする可能性は極めて低い」として、人件費などコストの安さをウリに製造業が発展してきた中国で、産業構造が完全に転換する時代に入ったとの見方を示した。


 また、中国証券報の伝えた広東省東莞に工場を置くある縫製工場の幹部は、「欧米など先進国では景気低迷で、消費者が製品の価格に対してこれまで以上に神経質になっている。よってブランド側は、出荷価格を抑えたい。ところが、生産拠点のある中国では、人件費高騰により、自社工場や受託生産メーカーではこれ以上、利益を削る余地がない」と強調。「このためブランドは、生産の委託先をベトナム、カンボジア、バングラデシュなど、生産コストが15年前の中国と同レベルにある国・地域にシフトする動きが顕著になっている」と指摘している。


 EMS(電子機器受託生産)/ODM(Original design manufacturer)業界でも、生産拠点を珠江デルタや上海を中心とする長江デルタの沿海地区から、比較的コストの安い重慶や四川省、河南省などの内陸にシフトする動きが2010年から本格化していることについては、当コラムでも何度か伝えてきた。


 このうち、年産8000万台規模とノートPCの世界的生産拠点の構築を目指す重慶には、米Hewlett-Packard(HP)社、台湾Acer(宏碁)社、台湾ASUSTeK(華碩)社が進出。受託生産ではノートPC受託生産で世界最大手の台湾Quanta Computer(広達電脳)や、EMS世界最大手の台湾Hon Hai Precision Industry社〔鴻海精密工業、通称:Foxconn(フォックスコン)〕の他、台湾Inventec(英業達)社、台湾Wistron(緯創)社、台湾Compal Electronics(仁宝電脳)社、台湾Pegatron(和碩)社の6社が進出している。このうち、Acerでは、重慶からのノートPC出荷が全体の5割を超える水準にまで達しているという。


 また、四川省の省都(県庁所在地に相当)である成都市には、フォックスコンが2010年、米Apple社のタブレットPC「iPad」の生産拠点を設立。さらにPCブランドでは米Dell社と中国Lenovo(聯想)社、受託生産ではCompalとWistronが工場を構えている。『工商時報』(2012年7月24日付)が伝えた同市幹部の話によると、フォックスコン成都工場では同年上半期、1600万台強のiPadを生産。同期における成都工場の輸出額は60億4300万米ドルと、同市の輸出総額の41%を占めるまでに成長している。


 このほかフォックスコンは、河南省の省都・鄭州市に、Appleのスマートフォン「iPhone」の生産拠点を設立。2011年8月から生産を開始している。中国紙『中国青年報』(2012年5月25日付)が中国民航局の李家祥局長の話として伝えたところによると、鄭州工場では1日に20万台のiPhoneを生産。iPhone世界出荷の7割を鄭州で生産していると報じている。