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苦節20年超のカーボン・ナノチューブに「春」が来た!?

野澤 哲生=日経エレクトロニクス
2012/08/10 10:03
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 1991年に発見されたカーボン・ナノチューブ(CNT)。このCNTが本格的に量産され、実用化される道筋がようやく見え始めました。CNTには発見当初から「夢の材料」と注目され、今でも年間数千本の研究論文が発表されているのですが、その裏でいくつかの大きな課題を抱えて、実用化がなかなか進まなかった経緯がありました。CNTがもたついている間に、同じ炭素材料のフラーレン(C60)、そしてずっと後に「発見」されたグラフェンが脚光を浴び、発見者は共にノーベル賞を受賞。CNTだけが取り残された格好です。発見から21年たっていますが、CNTで実用化されたのは、最近までテニス・ラケットのフレーム材料、つまり炭素繊維強化樹脂(CFRP)の添加材としてなどごく一部にとどまっていました。

 CNTの実用化が進まなかったのは、非常に多くの課題があったためです。中でも大きな課題の一つは、高純度のCNTを量産する技術がなかったこと。化学気相成長(CVD)法を用いる手法が開発されてからも、金属触媒などが不純物として大量に残る問題をなかなか解決できずにいました。一般的なCVD法を用いると、金属触媒が生成物全体の7割(重量比)を占める例もあったようです。ただし、単層のCNT(SWNT)については、純度の問題は日本の産業技術総合研究所が2004年に開発した「スーパーグロース法」で大幅に改善されています。現時点では日本ゼオンによって量産技術に磨きがかかり、99.98%の純度で製造できるようです。多層のCNT(MWNT)についても改善が進み、最近は95%前後という純度での量産が珍しくなくなってきました。

 量産が進み始めたことで、やはり大きな課題だった価格も大幅に下がりつつあります。2005年前後での価格は、1gが10万円超という高さで、しかも不純物だらけでした。これでは研究室でいくら有望な結果を得られても、産業用途には使えません。しかし、最近は特にMWNTの量産が進んでおり、年産400tという規模で製造するベルギーNanocyl社のようなメーカーも出てきています。この結果、MWNTの価格は1kg当たり1万円前後、つまり2005年時点の1万分の1に下がってきました。太陽電池などと同様、中国メーカーも多数がMWNTの製造に参入しており、今後MWNTの価格はさらに下がりそうです。SWNTの量産、特にスーパーグロース法による量産はこれからですが、市場自体はMWNT以上に期待されています。

 もっとも、SWNTには特有の課題もあります。それが金属型と半導体型の混合問題です。SWNTは、炭素原子の六員環と呼ばれる「網」のつながり方(カイラリティ)の違いで、金属型のCNTと半導体型のCNTに分かれてしまいます。しかも製造時には、金属型と半導体型が混ざってしまいます。これはSWNTを半導体として利用したい場合に大きな障害になっていました。これまでCNTの応用が、CFRPなど非電子デバイス、そして電子デバイスといっても蓄電池やキャパシタの電極材料など比較的単純な導電材料にとどまっていたのはこうした背景があります。ただし、最近この課題にも解決の糸口が見えてきました。金属型と半導体型を一度に作り分ける技術はまだありませんが、ほとんど室温で簡単に両者を分離する技術が開発されています。今後、半導体分野でも応用が進みそうです。

 課題はまだあります。例えば、CNTがアスベスト(石綿)と同様な健康被害をもたらすと指摘されたり、水などの溶媒に分散させるのが難しいという取り扱いの難しさがあったりした点です。ただこれらも健康被害が出る条件が明確になったり、分散させる際にCNTが破壊されない方法が開発されるなどして解決に向かっています。

 残る課題が用途です。これまでCFRPへの添加剤を超える用途はなかなか見えていませんでしたが、価格が下がってきたことも手伝って、蓄電池/キャパシタの電極材料の一部として使うことが非常に有望であることが分かってきました。今は、その用途に向けて製造プラントへの大きな投資をするかどうかの瀬戸際というフェーズです。

 多くの課題があったCNTですが、そのほとんどが解決に向かっており、本来の優れた性能を応用できる日が近づいています。特筆すべきは、CNTの発見からCVD法の開発、そして多くの課題の解決に日本の研究者/技術者が大きく貢献している点でしょう。2012年3月に「ノーベル工学賞」とも呼ばれる「Queen Elizabeth Prize for Engineering」が創設されたりしていますが、何らかの形でこうした研究者/技術者が脚光を浴びるといいなと感じます。

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