農業分野はこれまで、ITの利活用があまり進展していなかった。ここに来て相次ぎ登場しているサービスは、いずれも農業分野でデータに基づく改善策や新しい農業手法などを導き出し、生産性や農産物の品質、事業体としての収益性などを高めることをウリにする(図1)。データ収集・活用のために、センサーデータを取り扱う「M2M(マシン・ツー・マシン)クラウド」を基盤として用いる。

図1●富士通の農業クラウド「Akisai」のデモの様子。奥にみえるのが農業用センサー
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 ここでM2Mとは、多様な機器同士をネットワークで接続して人手を介さずにデータを交換することで、機器の状態を把握したり、逆に制御したりする仕組み(およびそうした考え方の総称)のこと。携帯電話網や無線LANといった無線ネットワークが普及・低廉化したことで従来に増して使いやすくなっている。

 農業分野においてセンサーで取得しようとしているデータには、温度や湿度はもちろん、日照量、雨量、土壌の温度、水温、肥料の多寡を知るための土壌の電気伝導度までさまざまである。温室栽培の場合は、室内の二酸化炭素(CO2)濃度や、温室内の環境を整えるための機器の稼働状況なども対象に加わる。

 これらのデータを取得・蓄積しながら、並行して、いつどんな肥料をどれぐらい与えたか、どんな作業を実施したかといったデータと組み合わせて分析する。これによって、その作物の栽培について土壌の温度や水温をどの程度に保てばよいのか、どんな条件の時にタネをまけばよいのか、投入エネルギーをどう減らせるかといった最適条件が得られる。

 これによって農家それぞれが独自の経験や勘に頼っていた作業の一部が、いわゆる“見える化”できる。生産効率が高まり、果物の糖度を高めてブランド商品化をうながすことも可能になるという。作業手順が規定できれば、未経験者の就農も容易になる。実際、ITの導入を進めた農業法人では、若年層の就業が増えているとする。

「センサーだらけ」にするわけにも・・・

 センサー活用が進むもう一つの分野がヘルスケア業界だ。体重計や血圧計、歩数計などをネット対応にすることで、日々の数値の変化をクラウド上で管理・確認したり、他者データと比較することで生活改善策を考えたりといったことが可能になる。最近では睡眠時の眠りの深さや脈拍数などを測定する「睡眠計」もネット対応になっている。

 ビッグデータやM2Mの考え方が広がり始めた今後は、「こんなデータが欲しい」「あんなデータが見たい」といったニーズも明確になり、それに合わせて各データに対応した専用センサーの開発も進むはずだ。

 しかし用途を絞り込んだセンサーは、精度を高めやすい、設置環境に最適化できるなどの利点があるものの、センサー自体のコストが高くなりがちだ。これをそれぞれのデータの種別ごとに設置していくとなると、初期導入時のコスト負担を大きく押し上げてしまいかねない。前述した農業クラウドにしても、サービスを利用する月額利用料のみを見ると数万円と安価だが、センサー類を設置しようとするとコストは一気に跳ね上がる。