ある国有自動車会社傘下にある自動車部品会社のことである。中国の製造会社ではリーン生産の導入が盛んである。リーン(LEAN=贅肉のない)生産とは、在庫、時間、スペース、労働力などあらゆるムダをゼロにすることを目標にし、バリューチェーン全体で継続的に改善を行っていく生産方式である。

 この部品会社ではリーン生産の導入に積極的で、グループ内でトップ企業となりたいとモデル工場として立候補をした。そして親企業からのバックアップもあり、総経理がリーダーとなってプロジェクトがスタートした。

 プロジェクトの目標値は高く、半年間で生産性1.3 倍、人員削減28%、必要な正味作業時間の20%削減、在庫量および保管面積30%減、改善人材育成15人…など実施領域が多岐にわたり、その成果評価指標も多い。総経理のモデル工場になりたいとう意思は強く意欲的であった。

 しかし、プロジェクトに参加したメンバーは総経理の肝煎りの活動にもかかわらず入社1~2年の若手が中心で、しかも管理者や監督者層もメンバーでありながら忙しいという理由であまり活動に出てこない。個人の仕事ぶりを評価して総経理に訴えるとメンバーが多少入れ替わったりしたものの実質的にはあまり変わらない。中国企業では、地道な改革改善活動は若手中心である。それは、今も昔も変わっていない。

 これは、中国と日本の企業風土の違いに関係している。中国では、現状を肯定し改善を好まず、自分の領域を決め他人の領域を侵そうとはしない、他部門や他組織と調整や協調しチームワーク良く改善することが苦手だということが挙げられる。そういった中でも、若手は新しい考え方や技術、方法論に対して非常に好奇心があり、変革を伴う改善案を検討するには向いている。しかし、逆に実施時には、人を動かし改善を実施させ実現する能力が不足していて、改善実施時においては実際に変化を伴う現場からの種々の反発を考慮しなければならず、これらをリーダーが補わなければならない。

 そして、この反発という点でも配慮が必要となる。作業者数28%削減を実行するため、作業内容や分担、レイアウト、治工具、管理方法の変更などを提案した際、推進プロジェクトリーダーが選択した指示は、一気に実施するのでなく、3カ月かけ段階的に実施して欲しいというものであった。混乱が生じグループ会社に影響を与えるといけない、また労働者に心理的、身体的な影響を強く与えてはいけないなどの理由からである。

 国有企業でありこれらの企業風土への配慮を忘れてはならない。案は素早く立て、実施は着実に、段階的に、である。改善はゆっくりだが、利益率は高く、売り上げがますます増大していく中国企業を見ると、日本企業は一層改善速度を高めなければならない。