販売構成比は11%――。

 ジーエフケー マーケティングサービス ジャパンの調査によると、2012年4~6月における国内市場での1万円以上の扇風機の販売割合は、冒頭の結果になったといいます。この割合が高いか低いかは意見が分かれるところ。ただし、こうした高級扇風機の販売構成比は、2010年4~6月が2.4%、2011年4~6月が6%であることから、着実にその市場は拡大しているといえそうです。

 国内における高級扇風機の市場を切り開いたのは、英Dyson社の“送風ファンが外から見えない”扇風機「Air Multiplier」と、ベンチャー企業であるバルミューダの“自然な風を作りだす”という「GreenFan」の2機種といえます。特に、バルミューダのGreenFanは、自然な風を追求するためにDC(直流)モータを採用したことで3~4Wと低い消費電力を実現。東日本大震災後の2011年夏には、節電意識の高まりを受け大ヒット商品となりました。

 DCモータ搭載品は、東芝やシャープなど大手家電メーカーからも続々と登場しており、家電量販店では“節電家電”の目玉の一つとして、特設コーナーが設けられるほど競争は白熱しています。もっとも、ACモータを搭載した扇風機は、消費電力は40W前後と、家庭全体の電力消費に対する割合は低い。それにもかかわらず、扇風機は「10W品よりも7W品、さらには3W品と、1Wでも消費電力が低いものが売れている」(ヨドバシカメラ マルチメディアAkiba 副店長の大塚勝利氏)とのこと。国内の消費者にとって、夏の節電は定着しつつあるといえそうです。

 DCモータ搭載扇風機の市場投入ではやや出遅れた感のある国内の大手家電メーカーですが、「検討そのものは数年前から進めていた」(東芝の扇風機を手掛ける東芝ホームテクノの商品規格担当者)といいます。ただし、価格が2万円を超えるような高級品が「市場に受け入れられるかどうかは未知数」(同氏)であるため、なかなか投入に踏み切れなかったとか。そういう意味では、Dyson社やバルミューダが高級扇風機市場を切り開いたことは、大きな追い風になったのかもしれません。

 もっとも、「遅れて市場投入する以上、違う切り口で勝負する」と東芝ホームテクノの商品企画担当者は続けます。「家電メーカーとして、送風性能や、省エネ性能だけでなく、使い勝手、デザインなどすべての面で、バランスの取れた製品を投入し、先進的なユーザーだけでなく、一般ユーザーに訴求していく」(同氏)とのこと。使い勝手の面では、円状の「スピンダイヤル」で風量調整ができる他、モノクロ液晶パネルで設定がひと目でわかるようにしています。最上位機種には蓄電池を搭載し、可搬性やピーク・シフト機能を実現します。やや強引にいってしまえば一点突破ともいえる競合他社に対して、総合力で勝負するということでしょう。

 一点突破か総合力か――。現状では競争はまだ始まったばかり。国内における節電商戦は2012年の夏で終わりではなく、2013年の夏以降も続くと考えられるだけに、結論が出るのにはもう少し時間がかかりそうです。2013年の夏に、各社がどんな路線を打ちだすのか注目しています。10年以上前の2980円の扇風機を使用している筆者にとっては、もう少しだけ価格が下がってくれたほうが嬉しくもありますが。

 なお、日経エレクトロニクス2012年8月20日号では節電に関連する特集記事「節電の夏、再び」を掲載しています。消費者の節電意識の変化とメーカー各社の取り組みについて、上記の内容を含めた上でまとめていますので、ご興味がある方はご一読ください。