少し前の話ですが、『日経ものづくり』2012年6月号で「故障を予測する」という特集記事を執筆しました。この特集では、機器の稼動データを収集・分析することによって、故障する前に故障箇所/時期を予測する技術を紹介しました。コンピュータ性能の向上やネットワーク環境の整備が進み、稼動している機器から収集した大量のデータを素早く分析できるようになっています。

 例えば、三菱重工業は全世界に設置されている同社製のガスタービン・コンバインド・サイクル(GTCC)プラントを対象とした故障予測サービスを展開しています。5分ごとに正常/異常を大まかに診断し、異常がみられる場合にはより詳細な稼動データを基に故障箇所/時期を予測するとともに、現地のサービス部門が対応します。

 近年、情報処理技術によって大規模なデータから有意な情報を得る「ビッグデータ」や、ネットワークに接続された機器同士の連携によって最適な制御を行う「M2M(Machine to Machine)」が注目されていますが、三菱重工業の事例は製造業のアフターサービス分野にこうした技術を適用したものともいえます。

スマートな手法が求められる製造業

 ただし、製造業の故障予測と一般的なビッグデータの分析では異なる点もあります。ビッグデータというと、関連性がはっきりしないデータ同士であっても、とにかく大量に集めて一緒に分析することで、今までにない知見を得るという活用法が多くみられます。「力任せ」という印象でしょうか。一方、製造業のアフターサービスの現場では、コンピュータ性能やネットワーク帯域の制約が比較的多い上、リアルタイム性が強く求められます。そのため、分析に用いるデータの種類/量やロジックを洗練しておく必要があります。「スマートさ」が求められているわけです。

 そうしたスマートな手法の1つが「MTシステム」です。MTシステムは、タグチメソッドから派生した手法で、良品/正常のパターンを基に不良/異常を検出するという特徴を持っています。つまり、あらかじめ良品/正常のパターンを定義しておき、収集した稼動データがそのパターン内に収まっているか否かを調べることで、良品/不良や正常/異常の判定を行えます。

 前出の三菱重工業も、このMTシステムを活用しています。同社のGTCCプラントでは故障予測に150~200種類の稼動データを使っていますが、それぞれの稼動データについて個別に正常/異常を判定するのではなく、全てのデータを用いてマハラノビス距離という単一の指標を計算し、その指標だけで正常/異常を判定しています。そして、異常と判定された場合のみ150~200種類の稼動データを詳細に分析し、故障箇所/時期を絞り込んでいきます。

 アフターサービスにおける故障予測に限らず、製造業の現場ではこのように大規模なデータを賢く分析する技術が欠かせません。そもそも、MTシステムの源流であるタグチメソッドもそうした考え方で開発された手法です。今後、MTシステムのようなデータ分析手法によって製品の価値を高めたり、業務プロセスを効率化したりすることが重要になるでしょう。

 そこで、タグチメソッドやMTシステムに詳しい品質工学・品質管理コンサルタントの立林和夫氏に、MTシステムについて解説していただくセミナーを企画しました。前出の三菱重工業も含めた豊富な事例に基づいて、MTシステムの本質を紹介していただく予定です。