その意味で、データの取り扱いに長けているであろうIT業界には、スマートシティ市場における大きなビジネスチャンスが見えてくる。ただ、残念ながら、これまでのIT業界は業種・業務特化型で事業を展開してきた。そのため、多くのIT技術者も、業種・業務を深掘りする形での専門化が進んでいる。他業種・他業務がどんなデータを扱っているのかを知る機会も少ないはずだ。顧客企業にしても、担当SE経由で他企業が持つデータまでを知ることもないだろう。

 だからこそ、誰と誰、どのデータとどのデータを組み合わせるかという「D2D」の構想力こそが競争力になる。事実、あるコンサルティング会社の有力コンサルタントは、「最近のビジネスモデルはクラウドの内側で開発されている。すなわち複数社がデータを持ち寄り、それをデータセンターで組み合わせることでサービスを生み出している」と明かす。「サービスが外側から目に見える形になった時点では、もう勝負はついている」(同)ともいう。

 すなわち、スマートシティ市場でのIT企業/IT技術者の役割は、従来型のハード/ソフトの販売や、そこでのアプリケーション開発から、都市を対象にした新サービスのビジネスモデルをクラウド上でいかに成立させるかというプロデューサー型に変わる。そこでは、特定企業や特定業界の利益のためだけではない、都市や住民の将来像を見据えたサービスを描き出すことが求められる(関連記事:「IT技術者よ、最終決断者はあなただ!」)。

未来を提案するのはIT技術者の役割

 これは、特定の顧客が求めるシステムを実現するという受託型ビジネスでもない。それぞれに目指すところが異なる個々人や企業などの集合体である社会の姿を先取りし、それを実現してみせるという未来提案型のビジネスにほかならない(関連記事:「IT技術者よ、未来を語ろう」)。

 エネルギーや上下水道、交通といった社会インフラのより効率的な整備・運用から、人口増加やそれに伴う都市化、あるいは先進国が直面する高齢化など、都市は今、様々な問題に取り巻かれている。日常生活にあっては、これらの問題はあまりに大きく、国や自治体任せになりがちだ。

 しかし、その国や自治体にしても、世の中にはどんなデータが存在し、それらを組み合わせれば何が解決できるかを把握しているとは言えない。縦割り行政の中で、それを求めるのは無理である。だからこそ、ITならではの手段で実現できる将来像を描き出し、自信をもって社会に投げかかるべきではないだろうか。

 「絵空事だ」との反論があるかもしれない。しかし、例えば今では当たり前のオンラインバンキングにしても、システム構築の当初には、IT技術者と顧客企業の担当者とがタッグを組み、監督官庁などに対し、種々の規制の見直しを説得して回ったという。ITそしてIT技術者が持つ変革の力は決して小さくはない。

 スマートな都市あるいはスマートな社会を作ることは、先進国や新興国の別を問わず、世界共通の課題だ。社会がIT技術者の知恵を待っているのであり、それに応えることがIT技術者の役割であるはずだ。

この記事はITproのコラム「記者の眼」から転載したものです。