「スマートシティ」をキーワードにしたビジネス環境が大きく変化し始めている。スマートシティというと、スマートグリッドなどエネルギーに特化したイメージが強いかもしれない。しかし今は、雇用創出や地域活性化、健康や安心・安全など、“暮らし”をテーマにした都市向けサービスをいかに生み出し、どうビジネスとして成り立たせるのかに、多くのプレーヤーの意識が向かっている。

 その“スマートさ”の鍵を握るのはデータだ。それだけにIT技術者の活躍が不可欠となる(日経BPクリーンテック研究所では、「スマートシティにおけるITビジネス必須講座」を8月24日から開催する予定)。

 世界では今、数百を超えるスマートシティ関連プロジェクトが走っている。多くのプロジェクトは、国や自治体の予算によって運営されている。だが、実証段階を超え、実際の社会に適用していくためには、「都市が求めるサービスを持続して運営するためのビジネスモデルの構築が急務だ」との認識が高まっている。

 スマートシティの中核にあるのは、メガソーラーや風力発電、送配電網や蓄電池、あるいはBEMS(ビル・エネルギー・マネジメント・システム)/HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)などによる電力の見える化や節電である。

 しかし、これらのエネルギー流通の最適化だけでは、スマートシティは成り立たない。都市での生活は、エネルギーだけで成り立っているわけではないからだ。そもそもエネルギー流通にしても、発電から送配電までの見直しだけでは最適化は図れない。最終消費者である我々が、どう電気を使うのかまでを視野に入れる必要がある。

 例えば、北九州市は6月末から、エネルギーの需要に応じて、供給側から需要調整を促すデマンドレスポンスの実証実験を開始した(関連記事:デマンドレスポンスの実証実験、北九州市が開始)。需要に応じて時間帯別に電気料金を変えるダイナミック・プライシングが目玉の一つだ。並行して、需要のピーク時に地域の小売店などが実施するタイムセールの情報を消費者に提供して外出を促すなど、個人宅での電力消費を減らす取り組みも検証する計画だ。我々の過ごし方が変われば、エネルギーの需給関係も変わるわけだ。

都市向けサービスの国内市場は2030年までの累積約58兆円

 都市を対象にしたサービスやビジネスモデルの構築を考えれば、その範囲は様々な分野に広がっていく。PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)といった行政サービスの民営化や、ホームオートメーション、見守り、遠隔医療といった住民のQOL(生活の質)に関するサービス、あるいは電気自動車(EV)の充電やEVからの電力供給などもある。

 スマートシティ関連サービスの市場規模は壮大だ。日経BPクリーンテック研究所がこのほど調査した結果、全世界のスマートシティ関連サービス市場は2030年に120兆円に達し、同年までの累積で約1000兆円になると見込まれる。このうち日本の市場規模は2030年の累積額で全世界の5.8%に相当する約58兆円になる見通しだ。

 暮らしをテーマにしたサービス開発においては、あらゆる業種・業界に市場参入の機会が生まれる。しかし、従来のサービス事業とは異なり、企業単独で都市が求めるサービスを成り立たせるのは難しい。QOL(生活の質)あるいは“豊かな暮らし”をキーワードに、複数の企業が連携・融合することが不可欠だろう。

サービスを生み出す鍵は「D2D(Data to Data)」にあり

 そして、企業の連携・融合の中核に位置するのが、データであることは間違いない。個人や企業、自治体、コミュニティなどが持つデータをどう集約し、どう組み合わせるのか――。これこそがスマートシティが求める新たなサービスを開発するための着眼点になる。

 実際、スマートフォンなどのプラットフォームに提供される個人向けサービスなどを見れば、位置情報や購入履歴といったデータの価値が最大限に生かされていることが分かる。だからこそ、データを収集するためのセンサーネットワークやM2M(Machine to Machine)、あるいは大量データの分析から新たな解を導き出すビッグデータといったIT分野のキーワードが、スマートシティの文脈でも前面に出てくるわけだ。

 しかし、業種・業務別の単独アプリケーションにとどまっていては、ビッグデータは生まれないと記者は考える。米グーグルのようにグローバルな共通サービスプラットフォームを築き上げない限り、一企業・組織が本業の中で取得できるデータには、量的にも質的にも限界があるからだ。複数の業種・業界が持つデータを結び付ける「D2D(Data to Data)」によって初めてビッグデータが生まれ、そこから新たなサービスが誕生するのではないだろうか。

サービスはクラウドの中で生み出される