高橋 人間の感性につながる部分なので、コミュニケーションのデザインはとても繊細にならざるを得ない。ロボットの外観や返答などのちょっとした不自然さが、人間にはとても気になるからです。

 これまでの認識処理の研究では、音声認識の精度などが重視されて、コミュニケーションのデザインに思いが至っていないところは否めません。人間同士のコミュニケーションだって相手の話すことを100%は理解していない。それでも、うなずいていて構わないし、酔っぱらい同士でも会話は成り立っているし、言葉が通じなくても何となくコミュニケーションできる。カーナビの音声認識は誰も使わないけれど、ペットの亀には話しかける。熊のぬいぐるみにも話しかける。話しかける側が一方的に擬人化できるかどうかにかかっているわけです。

 そういう部分のデザインが全体的にうまくいっていないと、嫌悪感を感じてしまう。技術があまり先端的でなくても、コミュニケーションのデザインがうまくいっていると対話が成り立つ。そこが大切なんだと思います。

加藤氏
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加藤 そういう開発をする際に、日本人の創造性は、どんな水準にあると思いますか。

高橋 ロボットは、外観と内部のメカ、コミュニケーション、感性・認知科学、加工、材料など、さまざまな技術が絡み合って成り立っています。だから、ある程度、文化が成熟しないと開発できない。キャッチアップするのがとても難しい分野なんです。

 その意味では、日本は先端にあると思います。バブルを経験して、日本人は豊富な資金で文化的なセンスを養った。日本のデザインや文化、製品は世界に大きな影響を与えています。そこは自信を持っていいのではないでしょうか。

 例えば、Apple社の製品を見るとすごく日本的な印象を感じます。タッチパネルのフリック操作で、弾むようなユーザー・インタフェース(UI)があるでしょう。電子書籍のページをわざわざ紙をめくらせるように操作させたり、前のページの文字が裏写りしていたり。ああいうUIは、本来必要な機能だけで考えるとすごく無駄ですよね。でも、その無駄なところに機能美がある。そこがすごく日本の伝統的な機能美の考え方に通じるところがあると感じています。日本の製品が好きだったJobsさんが、日本から学んだ点なのではないでしょうか。

 人と向き合う製品を開発する際に、今までと同じ発想の延長線上ではうまくいきません。コミュニケーションのデザインはその典型で、従来の発想では単なる装飾だと考えてしまいがちです。でも、そうではない。

 世界中の多くの人は、「ロボットと言えば日本」と思っています。だから日本で作っていることに値打ちがある分野。「スーパーカーはイタリアだよね」とか、「ワインならフランス」というのと同じで、精密機械と、アニメなどのコンテンツという二つの流れから「ロボットといえば日本」なんです。だから、一家に1台、1人に1台というイノベーションは日本が先を進んでいくべきです。

 そのためには、面白いことを考えて、実行することが求められています。特に若い人には、背伸びするより、無邪気に「悪のり」でやるくらいでいいと伝えたいですね。僕は、いまだにそれが楽しいですから。