加藤 すごく大切な視点ですが、とても難しいですよね。「尖ったことをやれ」と言っても、「どうやって食べていくんだ」と目先の研究になってしまいがちです。米国でも大企業はなかなかそう簡単にはいかない。

高橋 「何の役に立つのか」と問われた時に「面白いからいいじゃない」と言えるかどうかが重要だと思います。米国の優秀な学生たちは引く手数多で、起業で失敗しても何とかなるという自信があるのかもしれません。開発した技術の使い途は、ユーザーが勝手に見つけてくれるものです。その先に、収益化の方法が見えてくる。携帯電話機だって、最初の開発者が期待した使い方とはだいぶ違うのではないですか。

 アイデアやコンセプトは、斬新であればあるほど、理解してもらえない。だから、プロトタイプとしてきちんと形をみせることが大切だと思います。僕の場合は、自分で手を動かしてモノを作れるので、思っていることを形にできる。それが理解を得られる理由だと思います。そもそも、やってみないとアイデアが正しいかどうかを検証できない。うまくいかないかもしれないし、予想した以上にうまくいくかもしれませんよね。

加藤 多くの日本企業がロボットにチャレンジしていますが、うまくいっていない状況があります。なぜでしょうか。

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高橋 新しい分野なので、やってはいけないことがあると思うんです。例えば、既存の製品や作業を代替するロボットではいけない。既存の市場規模と同等か、せいぜいその数倍の市場規模しか見込めないからです。例えば、車いすロボットを開発しても、車いすと同等の市場規模ですよね。

 既存製品を置き換えようとすると、従来の機能や価格と勝負することになる。皿を洗ったり、掃除をしたりするのは人間の形をしている必然性がない。でも、そういう開発をしがちなんです。

 人間型ロボットの本質は、それを見た人間がロボットを擬人化して捉えることにあります。人間のように接することができるということの他に、人間と同じような形状をしている意味はありません。その人間とロボットの間のコミュニケーションの先に、無限の可能性が広がっています。

 iPhoneで話題の音声認識サービス「Siri」も、やはり四角い画面に話しかけることには抵抗感がある。そのハードルが下がれば、人間が受け取れる情報量は圧倒的に増えます。擬人化しやすければ、別に人間型ロボットは小さくても構わないわけです。コミュニケーションをデザインすることが大切なんだと思います。

加藤 他のインタビューで、人間型ロボットの役割はゲゲゲの鬼太郎の「目玉オヤジ」という例を挙げていましたね。これまでも、音声認識や画像認識は多くの研究がなされてきましたが、コミュニケーションのデザインが足りなかったということでしょうか。