【対談】―― 高橋智隆 × 加藤幹之

悪のりの延長にイノベーションはある

加藤 京都大学に入り直した後に起業しようと思った理由は。

高橋 智隆(たかはし・ともたか)氏
1975年生まれ。2003年に京都大学工学部卒業と同時に「ロボ・ガレージ」を創業。同大学内入居のベンチャー企業第1号となる。ロボカップ世界大会5年連続優勝。米TIME誌「Coolest Inventions 2004」などに選ばれる。現在、東京大学 先端科学技術研究センター 特任准教授や、大阪電気通信大学 メディアコンピュータシステム学科 客員教授などを兼任。
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高橋 好きなものを作るのが一番面白い。そのためには、自分でやる環境が最適だったということだけです。大手メーカーに入社しても、必ずしもロボット開発に携われるわけではありませんから。起業しようとか、儲けようとか、そういう理由が先にあったわけではありませんでした。

 企業としての規模が小さくても、個人のアイデアで社会的に大きなインパクトを与える仕事ができるように社会は変わってきたと思います。何か新しいアイデアやコンセプトがあれば、それを個人が発信できる社会になったということです。例えば、有名デザイナーのようなクリエーティブな人が大企業を動かせるようになった。だから、必ずしも会社を大きくする必要はないのだと思います。会社を大きくしてしまうと、社長業に追われて自分がやりたいことができなくなりますから。

加藤 開発した技術が最初にものになったのは、いつですか。

高橋 京都大学の2年生の頃です。特許相談室というのが大学にありまして。そこに相談して特許を出願しました。磁石で床の上に張り付いて2足歩行するロボットの技術です。ガンダムのプラモデルを改造して試作したら、予想以上にうまい具合に歩いた。

 それをおもちゃメーカーに売り込みにいきましたが、なかなかうまくいかなかったんです。でも、売り込み先から紹介していただいたメーカーに採用してもらい、商品化されました。その経験から売り込みに行くより、向こうがくるのを待つ方がいいと(笑)。来てもらった方が、ホームグラウンドで話ができますしね。

 面白いロボットを開発して、それをいろいろなところで見せていると、興味を持つ人が現れる。そういう人と話して、商品化やロボットの制作を請け負うというのが、ロボ・ガレージのビジネスモデルです。開発やデザイン、特許のライセンスが収益源です。造形作家と発明家を合わせた感じでしょうか。

加藤 開発するロボットのコンセプトが、とても大切ですね。

高橋 米国の「Facebook」や「YouTube」にしても、学生が考えた珍発明を見せびらかしていたら、「面白い、面白い」と利用者が広がっていく過程をたどっています。そういう悪のりな感じの先にイノベーションがあると思うんです。だから、市場調査をしたり、生活者の利便性を高めたりといったことの延長線上に新しい産業は興らないのではないでしょうか。

 ベンチャー支援制度でも、ロボット関連だと福祉や介護ばかりが重んじられるところがあります。でも、その先に新産業があるかと言われると、疑問です。新産業を創出するのは、もっと思い切った、尖ったことをしようとする取り組みだと思います。悪のりの遊び心の延長線上にあると。