そういえば、ある中国人経営者が言っていた。
 「日本企業は、多額の資金を使って従業員に研修を受けさせます。工場の掃除の仕方まで教えているらしいのです。それらの従業員に、当社(中国企業)に来てもらいたいですね。それこそ効率的な経営というものでしょう」
 日本ですでに研修を受け技術や作法を学んだ従業員を雇うことで、教育費を削減できるというわけだ。

 それだけ人気があるのであれば、5000人に勝ち残った清華大学や北京大学の学生たちの間でも日本企業はさぞや人気があるだろうと思うのだが、実はそうでもないらしい。彼らが目指すのは欧米の一流企業、特に外銀(外資系銀行)だ。こうした企業は実力主義を採っており頑張ればトップにもなれる。事実、中国現地法人として展開する外銀のトップは、そのほとんどが中国人だ。一方、中国にある日本企業のトップは、ほぼ例外なく日本人となっている。

 学生だけでなく、実際に日系企業に勤めている中国人も不満を募らせている。そのような生易しい状況ではなく、爆発寸前といっていいかもしれない。

 彼らは言う。
 「全然、給料が上がらないんだ。中国系企業でも3年も働ければ主任(課長)になれるところもある。主任になれば、給料が新卒の10倍って企業もあるのに」
 「日本人の上司が、ことあるごとに『君の日本語はまちがっている』とうるさく注意する。自分はまったく中国語を話せないくせに。そもそも中国語を勉強しようという気すらない。そんなやつに『日本語をもっと勉強しろ』とか言われたくない」
 「夜は、キャバクラ、土日はゴルフばかり。我々中国人が残って仕事をしていても残業代さえ払ってくれない。それなのに自分たちは、ろくに働きもせず我々の10倍近い給料をもらっている」
 「どんなに働いても日本人の奴隷。中国人でこの会社のトップになれる可能性はゼロ。結局、すべては日本の本社次第。私達には何の権限もない」

 中国人が最も嫌うのは「上から目線」だという。言葉の端々にそれを感じるらしい。日本人が言っていることを、通訳がいつも困って訳せないでいることを彼らは知っているのだ。次に褒めないこと。叱るが10に対して褒めるは1もない。中国人は元来褒められるのが好きだ。本当は、中国では「褒めて伸ばす」方が上手くいくのかもしれない。

 しかし、そんな問題だらけの日本企業に対して最近、中国人の見方が少し変わってきた。「一生、安定して暮らしていけるなら、少々のことは我慢する」などと言う若者が増えてきたのだ。変化を好み、競争し続けるのが現代中国人の気質の典型と思われているが、その一方で安定を求める若者が急速に増えてきているのである。

 「基本給にボーナスがあれば十分です。その代わり解雇されないという保証が欲しい」
 「福利厚生や保険を付けてもらえるのが日本企業のいいところ。競争ばかりが全てではありません」
 「中国企業はころころ変わりすぎ。日本には100年も変わらず存続する企業があると聞きます。うらやましい」

 中には、こんな声もある。
 「日本企業は家族のように従業員を扱います。案外、中国人の家族主義と合っているかもしれません」
 その日本企業は、社長が全ての従業員の家庭を訪問し、両親などに従業員を「家族のように扱いますから」とわざわざ説明して回っているのだという。欧米系企業や中国企業ではまず見られないやり方だが、中国にある日本企業では、こうした例は少なくない。

 松下幸之助の「会社の家族主義」というのも見直されているらしい。そういえば、松下幸之助に並び、京セラ創業者の稲盛和夫氏の本も中国の書店では飛ぶように売れている。

 今、再び、日本企業は中国人に見直されている。
 ただその「日本企業の魅力」は、日本では過去の遺物とされ、グローバル化の波にもまれ消滅しつつあるようにもみえる。何が日本の強みなのか、ということを、私達こそ見つめ直す必要がありそうだ。

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