図2●スマートシティ関連サービスの世界市場を2030年まで累計した額の分野別構成比
(出所:日経BPクリーンテック研究所)
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 サービス市場1000兆円の内訳を見ると、やはりエネルギー分野が全体の28%の約280兆円で最も多い(図2)。スマートシティの主たる目的は二酸化炭素(CO2)排出量の削減にあるので、エネルギーに関するサービスメニューが多くなるのは必然といえる。例えば前述のデマンドレスポンスや、省エネのコンサルティングといった、エネルギー消費をいかに削減するかというサービスを中心に今後、広がりを見せていく。エネルギーは生活に不可欠な基盤であり、家庭や企業など顧客層の幅が広いことも市場のポテンシャルをさらに拡大しそうだ。

 エネルギー分野に続いて大きくなるのは行政サービスで、約20%を占めると見込む。経費削減とサービス品質の向上を狙って、行政サービスの民間企業への委託が世界的に増えるからである。例えば人口が約10万人の都市、米国ジョージア州のサンディスプリングス市では、ほぼすべての分野の行政サービスの民間委託を実現している。

 同市では、職員を10人以下に抑え、残りの100数十人は民間企業に所属している。これにより業務を効率化し、サービス品質を維持しながら経費を削減した。米国ではこのような動きが急速に広がっており、今後は米国だけでなく世界に広がる可能性が高い。それだけ行政分野における経費削減は世界的な問題になっている。

 3番目に大きくなるサービス分野は、ホームセキュリティやホームオートメーションなどのホームネットワークである。エネルギーの効率化のためにHEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)を設置し、家庭での状況が定期的に送信されるネットワークが構築されれば、そのネットワークを利用して、セキュリティなどの家庭向けサービスが提供されやすくなる。

将来はモビリティー分野が拡大

 モビリティー分野のサービス市場はEVの普及に伴って急拡大し、2030年にはスマートシティ関連サービス市場全体の約19%を占めるまでに成長する(図3)。同様に医療・健康分野も、生涯カルテの整備や健康管理サービスなどの普及で市場が拡大し、2030年には構成比が10%近くに達する。

図3●スマートシティ関連サービスの世界市場を単年で見たときの分野別構成比の推移
(出所:日経BPクリーンテック研究所)
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 医療・健康分野では、先進国などで高齢化が進むのと同期するように新サービスが生まれていくが、市場規模として見ると、エネルギーやモビリティーに比べて広がりは小さい。

 例えば日本では電力サービスがほぼ全世帯に普及し、自動車の世帯普及率は80%以上と高いのに対し、昨今の健康ブームの追い風はあっても体重計や血圧計の世帯普及率は30~40%程度にとどまる。医療・健康はすべての人に関係する問題ではあるが、そこにおけるサービスに支出するかというと、意識はまだ意外に低い。このことから、医療・健康分野のサービスは1世帯当たりの単価を上げることが市場拡大のポイントになりそうだ。

 モビリティーや医療・健康のサービス市場が拡大する一方で、エネルギー分野とホームネットワーク分野のサービス市場は2015年から2030年にかけて構成比が下がる。2030年の時点で、エネルギー分野のサービスは最大市場を確保するが、ホームネットワーク市場はモビリティー分野に抜かれて4番目になる。

この記事は日本経済新聞電子版日経BPクリーンテック研究所のコラム「クリーンテック最前線」から転載したものです。