元払いでヨーロッパ旅行

 駐在期間中の1997年の夏休みに、家内と共に北京発でロンドンとパリへ1週間の観光旅行をした。北京の私営旅行社に英国航空の航空券と現地ホテルの手配をしてもらい、人民元で全費用を支払った。

 シベリアの大地を眼下に見ながら約10時間、直行でロンドンのヒースロー空港に到着し、初めてヨーロッパの空気を吸った。旅客の長い行列の先頭がフォーク型に分かれた空港の入国審査カウンター。老人、障害者、嬰児連れの婦人などは係員の案内で優先的に手続きすることができる。

 ロンドンからパリに移動する日の空港で、家内がパスポートと航空券を紛失したことに気がついた。航空会社の係員は親切かつ的確に処理の仕方を教えてくれ、翌日の便の予約までしてくれた。警察で紛失証明書を発行してもらい、駐英日本大使館に駆けつけ、パスポート再発行の手続きを行った。執務時間を過ぎていたにもかかわらず、日本大使館の職員も特別の配慮をしてくれ、翌日には家内の新しいパスポートを受領することができた。

 1日遅れて到着したパリのホテルは代替の部屋をすぐに手配してくれた。パリの中国大使館領事部は家内の中国入国ビザを短時間で発行してくれた。ドゴール空港では、ファーストクラスのチェックインカウンターに旅客が途切れると、隣のエコノミークラスに並んでいる旅客をそちらに誘導して手続きしていた。

 思わぬ事故が発生したのにもかかわらず、1日ですべてが解決し、ほぼ予定通り観光し無事北京に帰ってきた。東京や北京ではこのようにスムーズに処理できたのだろうか。この旅で最も印象深かったのは、長い繁栄の歴史を物語る都市の建築物や博物館・美術館ではなく、西ヨーロッパ社会の「サービスとフェアー」の精神風土であった。

囲碁同好会

 私は日本人囲碁同好会に加わり、毎週土曜日の午後に北京発展大厦の娯楽室で行われる囲碁会に参加した。当時、囲碁同好会の会長は大高浩氏(三井物産の常務取締役中国総代表)であり、私は事務係を担当した。時々中国の建設銀行や海洋石油公司などの大企業の社内囲碁クラブの人たちと交流戦を行った。中国棋院の王汝南院長(八段)や王誼国際交流部長(五段)とも面識を得た。

 中国棋院には一般対局室があり、誰でも囲碁を楽しむことができる。入場料を払い、さらに保証金を出して碁石を借り出してから碁盤に向かう。退出するときに碁石を返すと、重さを計量してから保証金を返してくれる。対局にはカネをかけるのが普通である。中国ではプロに指導碁を打ってもらうときにもカネをかけ、それが指導料になり、万が一プロが負けたら、プロの方がかけ金を払うという。同じ囲碁でもその文化には日中で差異があることが分かった。

 私は上海、杭州、張家港、成都、南寧、桂林など地方へ出張に出かける度に、地元の棋院や囲碁好きな人を探し出して囲碁を楽しんだ。北京の駐在員の間で「3GOをマスターする」という言い方があると聞いた。「語学」、「ゴルフ」、「碁」の3GOである。いずれのGOも国際交流のよい手段であることは間違いない。