近年、「微創新」という言葉が、中国のネットメディアやIT関連の新聞/雑誌などでよく使われている。中国語の「創新」はイノベーションの意味であり、微創新とは、文字通り、「大きい」イノベーションではなく、「かすかな/小さな」イノベーションに相当する。「微創新」が本当のイノベーションかどうかは、イノベーションの定義や範疇(はんちゅう)、イノベーションに対する理解や見方にもより、中国ではそうした議論も含めて「微創新」が注目される1つの話題になっている。「微創新」という言葉は、中国におけるイノベーションの現状を映し出したものともいえる。

微創新の由来

 この言葉は、最初はIT業界で用いられるようになった。その背景には、中国のインターネット・サービスのほどんどがアメリカのモデルをコピーして始まったことがある。

 Yahoo → sina.com …
 eBay   → taobao.com …
 YouTube  → ku6.com …
 Google  → baidu.com …
 Facebook → renren.com …
 LinkedIn → kaixin.com …
 Twitter  → weibo.com …
 Groupon  → 。。。。。。

 ポータルサイトはもちろん、検索、Eコマース(電子商取引)、ビデオ共有、SNS(Social Networking Service)、割引クーポン共同購入など、あらゆる種類のインターネット・サービスがそのように始まったと言っても過言ではない。アメリカのモデルをコピーする業者は1社や2社にとどまらず、多数の業者によってコピーされている。例えば、割引クーポン共同購入サイト「Groupon」をコピーするサイトは中国では、数百以上という。

 C2C(Copy to China)と言われるこのような事業モデルは、中国でも批判の声が多い。そのような指摘に対して、IT業界からは「それは単純なコピーではなく、微創新による発展のたまものだ」という声も上がっており、メディアでは「微創新とは何か」「微創新はイノベーションか」といった議論が広がっている。

 実際には、微創新に関する厳密な定義は現状ではないが、製品やサービスの創出に対しては、中国では大まかには次のように捉えられているようだ。

(1)製品やサービスは、開発者の視点や技術の視点で作られるものではなく、機能や技術の斬新さを競うものでもなく、ユーザー視点からユーザーの細かいニーズに対応することを目指すべきものである。

(2)最新さやオリジナルな発想、完璧さにはこだわらず、小さくても、シンプルでも、一点から突破して、いち早く消費者の心をつかむことが重要である。

 キーワードで示せば、ユーザー体験重視、一点突破、スピード重視である。

 前述のように、インターネット・サービスは、当初はほとんどがアメリカのネットサービスをコピーしたものだったが、その後は、いわゆる微創新によって中国のユーザーに適応するネットサービスへと発展してきている。例えば、中国を代表するポータルサイト「新浪」を開いてみれば分かるように、インターネット・サービス・サイト「Yahoo」のデザインや機能と完全に別物であるように見える。ビデオ共有サービスサイト「KU6」と同「YouTube」を比べてみても、違いが目立つ。「中国版Twitter」といわれるSNSサイト「微博」は、同「Twitter」よりも機能が豊富で便利と感じる中国人は少なくない。このように、微創新というアプローチは中国ではかなりの支持が得られているといえる。微創新で微革命を起こし、業界を変えるという本までも出版された。

タイトル
微創新を提唱する「微革命」という本の表紙(筆者撮影)