著者の三浦氏。一橋大学卒業後、パルコに入社。マーケティング情報誌『アクロス』編集長などを経て現職。世代や家族、消費などの研究から新しい社会デザインを提案している。(写真:加藤 康)
著者の三浦氏。一橋大学卒業後、パルコに入社。マーケティング情報誌『アクロス』編集長などを経て現職。世代や家族、消費などの研究から新しい社会デザインを提案している。(写真:加藤 康)
[画像のクリックで拡大表示]
第四の消費 つながりを生み出す社会へ、三浦展著、903円(税込)、新書、336ページ、朝日新聞出版、2012年4月
第四の消費 つながりを生み出す社会へ、三浦展著、903円(税込)、新書、336ページ、朝日新聞出版、2012年4月
[画像のクリックで拡大表示]

 消費社会が第四の段階に入った─。これが本書で私が主張したことです。日本において、近代的な意味での消費社会が始まったのは20世紀初頭。その後、消費社会の姿はほぼ30年ごとに大きく変容してきました。そして、1970年代半ばに始まった「第三の消費社会」がここにきて終焉を迎えたとみています。

 第三の消費社会では、個人の物質的な豊かさが追求されました。戦後の日本人がずっと求めてきた欧米的な消費生活が、実現したわけです。

 物質主義が徹底した今、日本人は逆に、自らを“物”によって満足させることができなくなったことに気づき始めています。代わって、人と何かを分かち合うことや、人とのつながりを持つことに充足感を見いだすようになってきました。

 これは個人レベルの話にとどまりません。少子高齢化の進行やエネルギー問題の顕在化によって、物質的豊かさを追う従来の在り方は早晩立ち行かなくなると、誰もが感じ始めています。私有重視から共有(シェア)重視へと社会全体が舵を切らざるを得ないのです。

 一昔前は、「共有」や「コミュニティー」といった、公共性に関わる言葉を口にしたり、活字にしたりすることには、ある種の抵抗感が伴いました。社会主義的な含みを持つ言葉だと取られかねなかったからです。ここにきてその状況は変わりました。共有やコミュニティーといった言葉がもっと軽い意味を持つようになり、誰もが違和感なく口にできる普通の言葉になったのです。

 東日本大震災はそうした流れに拍車を掛けたといえます。被災者への支援の輪が広がったということだけでなく、身近な家族や友人を喜ばせるという日常的な行為が決して恥ずかしいことではないという意識が広く浸透しました。ただし、震災以前から、「つながり」を重視するこうした動きはありました。震災を経てそれがより鮮明になったと捉えるのが正しいでしょう。

 企業はこの先、「共有」や「つながり」が価値を生むという視点に立って、ビジネスを考えなくてはならないと思います。物を作ってばらまけば終わり、という時代は既に過去のものです。物を売った後、それをどのようにメンテナンスしていくか。その作業を通じて顧客とどのように長く関わっていくか。そのための工夫こそが、これからは問われるのではないでしょうか。(談、聞き手は大下淳一)

Amazonで購入