本書は、大学卒業したての鈴木こはくが、父親の紹介でプラスチック工場に初出勤する場面からスタートする。
出勤初日とあって、作業服に着替えた「こはく」を部長自身が工場内を案内してくれる。ペレットといわれる米粒状のプラスチック材料をホッパーというタンクに入れ、溶かしたあと金型に流し込んで、固めて取り出す。まずは、おおまかな流れの説明を聞いたあと、今度は先輩社員から具体的な作業の内容を教えてもらう。
「バリ」や「ショート」など専門用語が登場したかと思うと、先輩から、「返事はしっかりしなさい!」と叱られたり、「この1か月が肝心だから! 聞いたりメモしたりして慣れてね!」と指導されたりもする。
技術だけでなく、パートやアルバイトが仕事に向かう姿勢の教育場面まで登場するのは、とにかくプラスチック工場に必要な知識をすべてカバーしようという原作者の強い思いがあるからだ。
なかでも印象的だったのは、学生気分が抜けないまま工場勤務をはじめた「こはく」が仕事の厳しさを思い知った場面。
仕事に慣れてラインをひとりでまかされた「こはく」だったが、出来上がった製品の中に「ショート」という不良品が交ざっているのを見逃してしまった。先輩に指摘され、「すみません、すぐによけます……」と言いかけたとき、いつもは優しい先輩が「そういうことじゃないでしょ!」と声を荒げた。
不良品を出荷すると他の製品の品質まで疑われてしまうし、お客様の組立ラインを止めてしまうかもしれないからだ。
騒ぎを聞きつけて様子を見に来た部長からも、「これは誰がやったものかね?!」と詰問される。こはくは「本当に申し訳ありません」と深々と頭をさげたが、ふだん温厚そうな部長が「新入りとはいえ、こういったものは……」と険しい顔をした。
生産現場でどれだけ品質が重視されているかが、強く読者に印象づけられる。
一度は落ち込んだ「こはく」も、入社5カ月目にはノーミス1カ月を達成するまでに成長した。そろそろ正社員に、という推薦とともに、雇用契約についての解説が展開されていく。
ものづくりの喜びを知った「こはく」は、プラスチック成形技能検定の存在を知り、もっとガンバルぞ! と心に誓うのだった。
何も知らない女の子が、少しずつ仕事の仕方や専門知識を覚え、成長していく様子は気持ちが良い。「新入社員編」に続く第2弾が待たれる。
■著者紹介
ブック・レビュアー
日経ビジネス本誌、日経ビジネスオンライン連動企画「超ビジネス書レビュー」(2011年9月終了)のほか、「宝島」誌にも連載歴あり。
ブログ「晴読雨読日記」、メルマガ「ココロにしみる読書ノート」の発行人。
著書に『泣いて 笑って ホッとして…』がある。
ツイッターアカウント:http://twitter.com/syohyou