オランダに学ぶ

 スマートビレッジを経済的に成り立たせるには、農林水産業に限らず地域レベルでエネルギーを融通し合うことも重要である。先行するオランダでは、農業生産法人が導入したコージェネレーションシステムで発生する熱エネルギーを地域の学校や養護施設に提供する試みが始まった。地域の施設にとっては通常よりも安い価格で熱エネルギーが得られ、農業法人にとっても副収入が得られるというモデルが成立している。

 オランダの取り組みは、ITの活用やパッケージ輸出という面でも参考になる点が多い。オランダは狭い国土を干拓・土壌改良に苦労しつつ広げてきた。その土地を最大限に生かすため、歴史的に施設園芸が重視され、農作物の収量を上げるためのコンピュータ制御が早くから進歩した。さらに農業法人間のオランダ国内における競争が激しく、海外に進出して新たなマーケットを開拓するしか道がなかった。これらの理由から、開発したソフトウエアやノウハウを組み込んだビジネスパッケージを海外に輸出してきたのである。

 施設園芸や植物工場に詳しい千葉大学名誉教授の古在豊樹氏によると、オランダの農業事業者の考え方は、無人化と自動化を徹底的に進めてスケールメリットを追求するというもの。新興国でもコスト競争力は高い。しかも同氏によると、栽培のノウハウを詰め込んだコンピュータ・プログラムをブラックボックスにして、簡単にはまねできないようにした上でプラント輸出を図っているという。知財戦略の面でも海外進出のインセンティブの面でも、オランダに学ぶ点は多そうだ。

農業クラウドの活用始まる

 日本の企業もITの活用で農業生産を効率化することに挑み始めている。例えば富士通は、農業生産者や農業法人向けのクラウドコンピューティング・サービス「F&AGRIPACKシリーズ(エフ アンド アグリパック シリーズ)」の提供を開始した。農業の「経営の見える化」「生産の見える化」「顧客の見える化」を支援するもので、富士通のデータセンターを利用したSaaS(Software as a Service)形式で提供することで、利用者はインターネットに接続されたパソコンから手軽にサービスを利用できる。

 第1弾として、農業独自の会計や給与計算、税務申告などの業務を支援する経営管理サービスと、農産物の生産履歴情報(耕作地ごとの天候、土地中の湿度、肥料を与えた日時・量、出荷状況、在庫など)を管理するサービスの二つを提供した。今後も、農業生産に必要なサービスを体系的に追加・提供していくという(図2)。

図2●富士通の農業クラウドサービス「F&AGRIPACKシリーズ」体系図
図2●富士通の農業クラウドサービス「F&AGRIPACKシリーズ」体系図
(出所:富士通)

 ユニークなのは、まず実際に宮崎県の農家である新福青果で実証実験を行って事業的にも成功を収めた後に、一般向けにサービスを提供する戦略を採っていることだ。新福青果の事例はマスコミにも数多く取り上げられ、ブランド価値向上の効果ももたらしている。

 日本でのスマートビレッジへの取り組みはまだ始まったばかりだ。世界的には後発かもしれないが、まだ手遅れというわけではない。センサーネットワーク技術やクラウドサービスを高度化するなど、新技術を次々に取り込むと同時に、被災地などで実証プロジェクトを立ち上げてノウハウを積むことで、国際競争力の高いビジネスパッケージの輸出モデルを確立できる可能性は十分ある。

この記事は日本経済新聞電子版日経BPクリーンテック研究所のコラム「クリーンテック最前線」から転載したものです。