農村や漁村の仕事をIT(情報技術)によって効率化し、地域経済の活性化や再生可能エネルギーの導入を進める――。こうした「スマートビレッジ」という考え方に今、熱い視線が注がれている。

 例えば農林水産省と環境省は、近くスマートビレッジの実証実験を全国5カ所で実施するための公募を始める予定だ。滋賀県も2012年2月に発表した2012年度予算案に、スマートビレッジ構想の実現に向けた調査費などを盛り込み、嘉田由紀子知事が掲げる「卒原発」を具体化する重要な事業と位置づけている。経済産業省も別の実証実験の中でスマートビレッジの構築に向けた取り組みを始めた。こうした流れを企業が見逃すわけはなく、既にスマートビレッジの走りともいえるビジネスを展開しつつある。

エネルギーの自給だけでなく

図1●みなまた農山漁村地域資源活用プロジェクト事業の説明パネル。
「スマートエネルギーWeek2012」で日経BPクリーンテック研究所が撮影
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 農林水産省と環境省の定義によると、スマートビレッジは「再生可能エネルギーを活用した発電設備を建設して、農村部における電力の自給自足を図ろうとするもの」。ただ、実証実験の内容などを見ていくと、この定義では少々範囲が狭すぎる印象を受ける。エネルギーの自給自足だけでなく、農林水産業の生産や経営そのものを効率化することで、農業や漁業従事者の経済基盤を安定させるところまで含む概念と捉えた方がよさそうだ。

 その好例として、既にスタートしているスマートビレッジの実証プロジェクトである熊本県水俣市の「みなまた農山漁村地域資源活用プロジェクト事業」を見てみよう(図1)。これは経済産業省が7地域で進めている次世代エネルギー技術実証事業のプロジェクトの一つで、実証の内容は次の3点である。

(1)次世代の低炭素型施設園芸(ビニールハウスに再生可能エネルギーを活用するシステムや直流駆動装置、ヒートポンプを活用した省エネ型の夜間温度制御装置などの開発)

(2)海面養殖栽培総合マネジメント(海上の養殖いけすに太陽光発電設備を導入して自立分散型の電源システムを構成。限られた発電量での充放電制御や無線遠隔管理を実現する)

(3)EMS(エネルギー管理システム)によるエネルギー最適運用(都市部に比べてエネルギー需要規模が小さい地域に適合し、地域での共同利用などによって低コスト化を実現するEMSの開発)

 再生可能エネルギーやEMSの導入にはコストがかかるので、実証実験のポイントの1つは「いかに経済的に成り立たせるか」になる。これは難しい課題だが、システム開発を担当する富士電機は「確かにコストは上がるものの工夫で解決できる」と考えているようだ。

 例えば(2)では、太陽光発電設備に費用がかかる。しかし、それをエネルギー源としていわゆるマイクロバブルを発生させ、カキの育成を促進し赤潮の被害を防げると見る。こうして生産性を上げれば、経済的にもメリットを出せるわけだ。さらに、再生可能エネルギーや省エネ技術など低炭素な手法を使っている点を消費者にアピールすることでカキのブランド価値を高め、以前より高価格で買ってもらえるようにすることを狙う。

 同実証プロジェクトの成果を別のプロジェクトに移植する「横展開」も目的の1つ。東日本大震災の被災地の農林水産業の復興に役立てると共に、東南アジアなど海外にビジネスパッケージとして輸出するモデルを確立したいという。