もちろん、携帯電話やスマートフォンのCPUで世界的に大きな市場シェアを持っているQualcomm、MediaTekのように、多機能化したシステムLSIで大きな収入をあげている企業もあります。ただ、システムLSI事業で成功するためには、システムLSIのチップを供給するだけでは不十分です。ユーザーであるホスト機器のメーカが、システムLSIを使いこなすための、ソフトや開発環境も提供することが重要になります。

 このように、微細化、高画素化、大面積化、高機能化といった技術開発が、必ずしも高い収益をもたらすわけではないのです。

 いまや、技術の開発と同時に、ビジネスモデルの開発も必要になっているのです。最初の経営者の話に戻りますと、投資家が投資の決断をするためには、経営者は、技術だけではなく、説得力のあるビジネスモデルを説明する必要があるのです。

 成功している例もあります。もはやコモディティで儲からないと言われる携帯電話の市場でも、富士通はお年寄り向けの「らくらくホン」で高い利益を上げています。機能を単純化しただけではなく、相手の声をゆっくりさせて聞きやすくする音声技術など、お年寄りが使いやすいような、様々な技術的な工夫をしているのです。

 また、手前味噌で恐縮ですが、竹内研究室は抵抗変化型メモリ(ReRAM)とフラッシュメモリを組み合わせたハイブリッドSSDを提案しました。断片化したデータや頻繁に書き替わるデータをReRAMに格納することで、10倍上の性能の向上、低電力化を図りました。

 ビジネスモデルとして重要なのは、ReRAMの搭載によって、ハイブリッドSSDの単価は若干(数%)増加します。一方、ハイブリッドSSDでは、フラッシュメモリへのアクセスが劇的に減少するため、フラッシュメモリの寿命が伸び、SSDの交換頻度が1/7に下がります。つまり、データセンタなどで使われるSSDのコストが実質的に1/7に低下するのです。この劇的なコスト低減により、ReRAMといった新しいLSIの採用が進むと考えています。

 こういった、技術とビジネスモデルの連携がなくして、収益を上げることは難しいのです。「産業界のコメ」といったように、重要な製品だから、投資を受けられて当然という時代ではありません。エルピーダメモリが倒産し、Micronに買収されたことがその象徴でしょう。

 そもそも、技術や製品は、企業が収益を上げるための手段であり、目的ではありません。もう一度、ビジネスの原点に立ち戻り、技術開発と同時にビジネスモデルを再構築することが求められているのです。