「開発する製品や技術の説明はあるんだけど、ビジネスや収益の見通しがないんですよ」

 苦境が続く電機メーカーの経営者が経営方針を説明する会に出席した金融業界の方々のぼやきです。確かに、エレクトロニクス業界では、技術や製品の開発をしていれば、ビジネスモデルをさほど気にしなくてよい時代が続きました。

 例えば、半導体業界では、ムーアの法則に則って、微細化を行い、低コスト化、大容量化、高速化を行ってきました。パソコンの市場が成長し続けていた時は、微細化によって市場は自然と拡大しました。また、液晶ディスプレイについても、高画素化・大面積化を行えば、市場が拡大していきました。

 ところが、パソコンは十分に性能が高くなり、液晶テレビの画面は十分に面積が大きくなり、低価格になりました。つまり、半導体製品や液晶ディスプレイの低コスト化・高性能化が必ずしも市場拡大に結び付かなくなったのです。

 エレクトロニクス業界のエコシステムは単純です。
(1)設備投資(半導体の微細化、ディスプレイの大面積化など)を行う
(2)投資により、集積度の向上やコストの低減を行う
(3)コスト低減により、製品の価格が低下する
(4)価格低下により、応用製品が拡大し、市場が成長する
(1)回収した資金によって再び設備投資を行う
・・・
といったサイクルをまわし続けるのです。

 現在苦境に陥っている、DRAMや液晶ディスプレイは、市場の飽和により、(4)応用製品の拡大・市場の成長、が鈍っています。そうすると、半導体の微細化やディスプレイの大面積化は、単なる価格暴落を引き起こすだけ。技術開発により、自分で自分の首を絞めることになるのです。

 システムLSI事業も状況は深刻です。機能を多く搭載しても、必ずしも高い付加価値にならない。また、顧客の要求を応えようとして、機能をカスタマイズをした結果、製品の品種の数が増えてサプライチェーンが混乱。その結果、製造コストが増加してしまっています。

 多機能、多品種という技術開発が必ずしも高い収益をもたらさないのです。一方、米国のMarvelやLSIのように、HDDやSSDといったストレージのコントローラという特定の市場に絞った企業が、高収益をあげている場合もあります。