先月取材したディスプレイ関連の学会「SID(Society for Information Display)」の展示会場で、一風変わった展示に出会いました。接着剤メーカーの協立化学産業が展示していた、鏡のようなディスプレイです。液晶ディスプレイの手前にハーフミラーを貼り付けたもので、鏡としても使えますし、液晶ディスプレイに表示した映像も見られます。

協立化学産業が展示していた、鏡のようなディスプレイ
同社の接着剤で貼り付ける方式の利点を示すために、画面の左半分と右半分で表示品質の違いを比較できるようにした。左半分は同社の接着剤をハーフミラーの全面に塗って液晶パネルに貼り付けており、右半分はハーフミラーの周辺部に両面テープを貼って液晶パネルに取り付けている。
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 このようなディスプレイはホテルや店舗などに採用された事例もあり、それ自体が決して珍しいものではありません。筆者が興味を持ったのは、接着剤メーカーがこれを開発し、展示していたことです。

 協立化学産業は、タッチ・パネル関連の事業で急成長している会社です。同社の接着剤の需要が、タッチ・センサ基板と保護カバー・ガラスや液晶パネルを貼り合わせる用途で、急拡大しているからです。タッチ・パネル向けの接着剤市場は、当面、急成長が続く見通しです。タッチ・パネルを搭載するスマートフォンやタブレット端末の市場が伸び続けるからです。

 さらに、同社の接着剤事業には追い風が吹いています。タッチ・センサ基板の外周部に両面テープを貼って液晶パネルや保護カバー・ガラスを取り付けるのではなく、面全体に接着剤を付けて貼り合わせる同社の方式の採用例が増えていることです。この方式を用いると、界面反射が抑えられ、ディスプレイの視認性を向上することができます。これは、バックライト輝度の低減にもつながるため、低消費電力化にも有効です。

 しかし、同社はこのような事業環境にあっても、慢心していません。出荷量は急ピッチで伸び続けても、コスト要求が厳しくなるため、「タッチ・パネル用途のビジネスが現在の収益性をいつまでも維持できるとは考えていません」と、同社 事業本部 営業企画・管理の平木大輔氏は言います。

 平木氏が次のビジネスチャンスとして目を付けているのが、リビングルームのテレビです。売れるテレビの条件として、同氏はデザインに着目しました。「外観をガラリと変えて、部屋に置いたときに格好良いと思えるものにテレビを変えたい」という信念から、同氏は接着剤メーカーの営業企画担当者でありながら、実際に試作までしてしまいました。

 これが、冒頭で紹介した鏡のようなディスプレイです。ハーフミラーを全面に貼り付けることで、液晶パネルの表示部の周囲に存在していたベゼル(額縁)が無くなったように見えます。筆者は、スマートフォンを初めて見たときのような斬新な印象を持ちました。ハーフミラーの貼り付けには、もちろん自社の接着剤を使っています。ちなみに、部屋に置いたときのデザイン性を切り口にして、テレビの販売に新たに乗り出す有名企業も出てきています。例えば、欧州の家具メーカーのIKEA社です。欧州市場を皮切りにテレビ事業に参入する計画です。

 さて、筆者は7月から新たに日経エレクトロニクスの編集メンバーに加わることになりました。日経エレクトロニクスの読者の皆様とともに、上述の平木氏のように現状に安住することなく、新たなビジネスチャンスのタネを常に探索していきたいと思っています。どうぞ、よろしくお願いいたします。