「テリー・グオ(郭台銘)さんはね、中国に抱えている120万人の社員を『明日どうやって食わせるか』そればかりを四六時中考えているんだと思いますよ。そのために最も大切なのは何か分かりますか? スピードです」

 上海近郊に生産拠点を構える米国系EMS大手の台湾人幹部の言葉だ。

 シャープと電子機器受託生産(EMS)世界最大手、台湾Foxconn(フォックスコン=鴻海=ホンハイ)社の提携を巡り、両者の関係が必ずしも良好ではないことをうかがわせるような報道が最近、特に日本で増え始めているように見受けられる。

上海浦東の金橋にある上海シャープ。ここではエアコンや洗濯機などの白物家電を製造しているという
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 例えば日本経済新聞は6月25日付で、「『丸ごと買収するぞ』 シャープが震える鴻海の圧力」と題する記事を掲載している。交渉の過程で最近、シャープがフォックスコンに揺さぶられる局面が増えているというもので、細かい手順や体裁に一つひとつこだわり、煮え切らないシャープの姿勢に業を煮やしたフォックスコンのトップ、テリー・グオこと郭台銘董事長が、シャープの幹部連に向かい、「こんなに時間がかかるのなら丸ごと買収するぞ」と恫喝。「対等なパートナー・友達としてやっていくと言っていたのではないのか……」として郭氏の態度や剣幕に驚きを隠せないシャープの幹部らの様子を伝えている。

 さらに、シャープが6月25日に開催した株主総会の様子を報じた複数の日本メディアによると、6月中旬、シャープ株買い増しの意向を示した郭氏の発言を受け、フォックスコンの「乗っ取り」を懸念する株主からの質問に対し、シャープの奥田隆司社長は、「ホンハイからこれ以上の出資や役員を受け入れる予定はない」と強調。翌日の台湾メディアは、「シャープ、フォックスコンの追加出資を拒否」として奥田社長の発言を一斉に伝えるとともに、シャープの決定の遅さに苛立つ郭氏の様子を伝えた日経新聞の記事をあわせて伝えたものもあった。

 そのうちの一つ、台湾の経済紙『工商時報』(6月27日付)は、日本で伝えられたシャープとフォックスコンの交渉の様子を、「急惊風に罹った郭さん、のんきな日本の医者に遭遇」と題する論説記事で取り上げた。

「急惊風」とは中国医学にある病名の一つ。適当な訳語はないが、突然の高熱やイライラに襲われるという症状が特徴とのこと。そこで当社のウェブサイト閲覧には会員登録が必要2週間無料で読める試用会員も用意)では、「シャープ・鴻海に不協和音? 『台湾の急患が、のんきな日本の医者に遭遇』と台湾紙」と題してこれを伝えた。