工商時報は、先の奥田社長の発言を紹介した上で、「市場は両社の提携が、予想ほど順調でないことを心配し始めている」「シャープの株価下落に歯止めがかからないことで、市場には両社の姻戚を懸念する声が絶えない」など、台湾市場の反応を紹介。その上で、「郭氏の性格を反映して、フォックスコンは決定の速さと対応の柔軟なことで知られる。その郭氏が、倫理の追求と秩序を重んじる日本に遭遇した。両社の現状は、例えれば、急患がのんきな医者にぶち当たったようなものだ」と評した。中国医学の病名を持ち出して郭氏のせっかちな性分を揶揄してはいるものの、やはりシャープのフットワークの悪さを強調する内容だ。

 一方で、フォックスコンとの交渉に臨む一連のシャープの様子や、それを伝える日本メディアの取り上げ方を、他のEMSはどのように見ているのか。それを尋ねて返ってきたのが、「120万人の社員を食わせるためには、スピードが命」とする冒頭の米国系EMS幹部の発言である。本人は台湾人だが、生産拠点のある中国に長年常駐、顧客には日系家電大手もおり、もちろん、米国流の経営手法にも精通している。

 シャープは郭氏のスピードに困惑しているようですが、と話を振ると、「いまはフォックスコンとシャープ双方のやり方のすり合わせを行う時期。摩擦が起こるのは当たり前のこと」とコメント。その上で、「EMSという業態は、一にも二にも、スピードが勝負。フォックスコンが、米Apple社の仕事をあれだけ独占できているのは、低コストを実現しているからだけではない。決定、生産などあらゆる面でのスピードが速く、数千万台規模の製品を素早く市場に投入できることを評価されているからだ」と述べた。

 スピードが遅いと何が起こるのでしょうか? 「より安い値段、より新しい製品を先に出される。結果、瞬く間に競合に市場を奪われてしまう。その先に待っているのは? 120万人の工員が遊ぶことになるという現実だ。考えるだに恐ろしい。120万人が倒れないよう、明日の仕事はおろか、今日午後の仕事を確保するために、郭さんがどれだけ心血を注いでいるか。それを想像すれば、郭さんがなぜそこまでスピードを求めるのかを、少しは理解できるのではないか」

 ただ正直、日本企業には、100万単位のスケールを運営する企業のスピード感は実感として分からないかもしれません、と伝えると、「日本メーカーはこれだけシェアを減らしているのに、どうして外から『遅い』と思われてしまうほどのんびり構えていられるのか? 台湾人だけでなく、外国人にとっては日本の姿勢の方がむしろ不思議だ」との感想が返ってきた。

 こうして紹介してくると、日本に対する批判ばかりのように思えるが、そうではない。先の幹部も、「日本の技術とEMSや台湾の製造が組めば韓国勢と戦えるし、当社もそれを願っている。ただ、EMSと協力してやるかどうかを決めるための交渉に一年もかけていたのでは、製品を市場に出す前に勝敗が決してしまうということだ」と話す。

 さらに工商時報が先の論説記事を、郭氏を戒め、日本を慮るこのような言葉で締めくくっていることを紹介して、今回の結びとしたい。

「すり合わせの時間を十分にとらなければ、提携が完璧な旋律を奏でることはできない。保守的な日本というパートナーを前に、一貫してスピードを追求してきた郭氏にも、今回ばかりは根気強さが必要だ」

「シャープ及び同社の日本の株主に対して、フォックスコンと台湾の善意を十分に理解してもらって初めて、韓国に立ち向かえるということを、郭氏は学ぶ必要がある」