NECの筑波研究所に所属していた飯島澄男氏がカーボン・ナノチューブを発見したのが1991年。「地上から静止軌道まで伸びる『軌道エレベータ』も実現可能になる」――当時、高校生だった私は、技術の詳細はまったく分かりませんでしたが、新聞報道などを見てとにかくワクワクしたのを覚えています。

 現在、広く使われるようになったLiイオン2次電池がソニーなどによって実用されたのも1990年初頭です。当時の日本の電機メーカーは間違いなく、世界でも抜きん出た研究開発力を持っていたと思います。製品においても品質・性能・価格面で他国の追随を許さず、「メイド・イン・ジャパン」のブランドが世界を席巻していました。

 しかしバブル崩壊後、IT(情報技術)の台頭、デジタル家電の普及などを経て、日本メーカーの競争力は少しずつ弱まっています。基礎研究はまだ一日の長はあるものの、Liイオン2次電池や有機EL、LTEなどのように、最先端技術の中には韓国や中国勢などに追いつかれかねないものも少なくありません。長引く不況に2008年のリーマン・ショックが追い打ちをかけ、2007年度に約2.8兆円だった国内大手電機8社(東芝、日立製作所、三菱電機、シャープ、ソニー、パナソニック、NEC、富士通)の研究開発費の合計額は、2011年度の時点で約2.4兆円まで減少しています。各社の苦境から鑑みると、研究開発に投じられる予算は今後さらに厳しくなりそうです。

 では、日本の電機メーカーの研究開発の優位性は完全に失われてしまうのか。私は、決してそんなことにはならないと思っています。14年前に技術分野を専門とする記者の職に就いて以来、国内外の数多くの電機・IT関連企業を取材した上で、日本の技術者の優秀さを身を持って感じているからです。「研究開発のやり方さえうまく変えれば、日本の電機業界は再び浮上できるのではないか」。そんな着想から、弊誌2012年6月25日号の特集「垂直連携で技術大国再び」の企画に参加しました。

 本特集の取材では、さまざまな分野の研究者や専門家にご意見を伺いました。技術立国として発展してきた日本の将来を憂慮し、研究開発のあり方を変えようとしている彼らの熱意には、圧倒されるばかり。私が思っていた着想は、確信へと変わりました。20年前と同じようなワクワク感を感じる技術を、日本の電機業界が再び生み出してほしいと強く願います。本特集にご関心を抱かれた方は、ぜひご一読をいただければ幸いです。