世界的な経済の不透明感は、日本の企業ですら先行きが見えずに二の足を踏んでいる感がある。当面は消耗戦に備え自粛策オンリーになるのはやむを得ないが、いずれは突破口を見つけなければ生き残る事は難しい。

 第二、第三のパラダイム・シフトが次々に襲ってきているわけだが、それらに対応しつつもわずかに残された余力でブレイクスルーするきっかけを掴みたい。となると我々がカオスの淵にいるのだとすれば、まったく新しい視点で経済を見なければ突破口は見つける事ができない。

 突破口とは何か?

 IT時代の覇者ビル・ゲイツ氏が「もしいま自分が学生だとしたら生物学(バイオ)を学ぶ」と言ったそうだ。ではそのパラダイム・シフトを引きおこすかもしれないバイオとは何か? 企業に取ってバイオとは何か? カオスの向こう側にあるかもしれないバイオとはいったいどんなことなのだろうか? と次々に疑問がわく。

 もう少しわかりやすくバイオ科学は身近な我々の生活や消費者の価値観に、どのような影響を及ぼすのかを考えようとしてみた。例えば聞いた事もない新しい病気が連日ニュースに報道されるが、それらに対応する新薬はどのように作られているのだろうか? などなど。

東京農業大学バイオサイエンス学科の矢嶋俊介教授
東京農業大学バイオサイエンス学科の矢嶋俊介教授

 ここから先は素人があれこれ考えても仕方がない。専門家に伺うべきだと考え、薬分子のスペシャリストである東京農業大学バイオサイエンス学科の矢嶋俊介教授をインタビューした。

 「薬の働きは、カギとカギ穴に例えて説明されることが多くあります。カギ穴を病気や痛みの原因物質とし、カギを薬に例えるのです。病気や痛みの原因となるカギ穴の構造を解明して、それにぴったりのカギを自然界から発見したり、化学反応を利用して作り出したりします。それらを体に投与して病気が解消されるといった成果が、続々と発見されています」。

 人間の歴史を振り返ると、例えば漢方薬などは前者(自然界から発見する)にあてはまる。何千年という月日をかけて人間は経験的に「この病気にはこの野草が効く」という例を多く見出してきた。当時は薬草がなぜ効くのかはわからなかったが、現在では植物中のどの分子が薬として作用し効能を示すかなどが精密分析機器を用いた分析とバイオテクノロジー理論によって明らかにしたうえで、創薬を生み出す時代が誕生したのである。矢嶋先生は病気の原因物質となるタンパク質やそれに作用する薬分子の構造などを研究している。