この料金テーブルを、基本的に前日に各スマートメーターに送付する。当日朝にも再度、需給を予測し、前日に送付した料金テーブルが適切かどうかを確認する。その際、緊急需要などがあれば、当日朝に特別な料金テーブルを送付することもある。

 こうした制度の設計を支援したのは日本IBMだ。同社の橋本孝之取締役会長によれば「日本初はもとより、制度のきめ細かさでみれば世界初の取り組みになる」という。北九州市の北橋健治市長も、「ダイナミック・プライシングなどの“賢い”システムをここから世界中へ発信していく」と意気込む。

“スマート化”に向けたIT面での課題も解決へ

 ダイナミック・プライシングの実証実験では、料金テーブルなどの制度設計と並行して、地域節電所とスマートメーターを結ぶ仕組みといったIT(情報技術)面でも多くの検討が進んでいる。具体的には、ネットワーク上でやり取りするデータの形式や伝送方法、データの扱いに対するセキュリティーポリシーなどである。今回は北九州市が定めたガイドラインに沿って、地域節電所や事業所に置かれているBEMSなどとの接続などが実現されている。

 セキュリティーの確保は、ダイナミック・プライシングの実証においては特に大きな課題になる。ガイドライン作成などを支援した新日鉄ソリューションズ(NSSOL)の桜井新システム研究開発センター部長によれば、「スマートメーターで取得した使用量のデータは、いわゆる機微(センシティブ)情報として扱わなければならない」という。スマートメーターでは、従来の電力計とは比べものにならないほど多くの情報を取得できる。つまり、データを解析するとその個人がどのような生活をしているのか見えてきてしまう。このため、漏れてはならない重大な個人情報を意味する機微情報として、慎重に扱う必要がある。

 スマートメーターで取得した同じデータであっても、地域全体としての需要量予測などで統計処理する場合は、個人を特定する必要がない。そこでの情報システムは、使用量データを機微情報として扱う必要はないが、課金システムにおいては異なる。上記の理由から機微情報として扱うので、情報システムとしてもセキュリティーに配慮した作りが必要だ。具体的には、データを分割保存して安全性を高めたり、暗号化を施して読み取りにくくしたりといった仕組みを実装しなければならない。

 2012年の夏の電力不足がいよいよ厳しくなり、エネルギー基本計画の見直しも進む中、デマンドレスポンスの実効性への期待が高まっている。北九州市での実証開始式典に参加した経済産業省の牧野聖修 副大臣は「節電や負荷の平準化に向けて、需要家に働きかけることは従来、困難だった。ダイナミック・プライシングはデマンドレスポンスの切り札になる」とした。

 電力料金を可変にすることが日常の暮らしにどう影響を与えるのか。北九州市の実証実験には、世界からの注目が集まっている。

この記事は日本経済新聞電子版日経BPクリーンテック研究所のコラム「クリーンテック最前線」から転載したものです。