「地域節電所」で地域全体の電力需要を管理

 北九州市は、このダイナミック・プライシングの実証に向けて「地域節電所」と呼ぶ施設を2012年5月26日に始動させた(写真2)。地域のエネルギー流通を一元管理し、需給予測をしたり、料金変更の必要性を判断したりする“司令塔”になる施設だ。

写真2●地域全体のエネルギーの需給最適化を図る「地域節電所」
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 地域節電所では、気象予測のデータなどを取り込みつつ、天然ガスを使ったコージェネレーションや太陽光などによる発電量を予測する。並行して、実証実験に参加する北九州市八幡東区東田地区の230世帯、50事業所の電力需要量も予測する。さらに東田地区に設置した大型蓄電池の充放電の能力も加味し、同地区内における最適なエネルギー流通の状況をコンピューターで計算する。その結果、もし供給量不足に陥る場合は、需要抑制の必要度に応じた時間帯別の料金テーブルを作成し、実験に参加する世帯や事業所に伝達する。

写真3●実証実験の参加家庭などに設置されるスマートメーター
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 料金テーブルの伝達には、家庭や事業所に設置したスマートメーターを用いる(写真3)。家庭ではスマートメーター経由でタブレット端末などを使って料金テーブルを参照し、家事の時間帯などを考慮する。事業所ではそれぞれが持つBEMS(ビル・エネルギー・マネジメント・システム)によって、事業所内の照明や空調機器を制御することで電力使用量を抑えていく。

料金レベルを5段階で設定

 ダイナミック・プライシングの検証で重要なことの一つが、料金テーブルをどのように設定し、いつ通知するかということだ。

 料金の変動幅が小さすぎると、多くの消費者は「それぐらいは払ってもよい」と考えてしまい、需要抑制にならない。逆にいたずらに変動幅を広げてしまうと「どうしても電気が必要」という需要家の負担が過大になってしまう。

 料金テーブルを適切に設定できたとしても、通知が早すぎるとうまくいかない。時間がたつうちに忘れてしまったり、電力が足りないという切迫感に欠けたりして抑制が効きにくいこともあるだろう。一方で料金テーブルの伝達が直前すぎてもよくない。消費者は常に料金テーブルを気にしているわけではないので見過ごしたり、予定を動かしにくかったりするからだ。米国では、2時間前に通知するケースもあるようだが、今のところ日本ではなじまないのではないかと考えられている。直前に通知する場合は、例えば外出してしまった後でも電力使用機器を遠隔操作でオフにできる仕掛けなども必要になってくるだろう。

 北九州市の実証実験では、料金テーブルを5段階で変更する計画だ。レベル1が平常時の昼間料金(約20円)で、レベル5ではこれを7.5倍の150円にまで引き上げる。夏季は13時~16時の日中に、冬期は8時~10時と18時~20時までの2回、料金を変動させるイメージだ。