そのプラットホーム戦略を見直している自動車産業は今、技術的に大きな転換点にある。エンジニアが仕事の進め方をゼロベースから再構築する時代が来ていると言った方が適切かもしれない。プラットホームという概念自体が消えてしまうかもしれないし、新しい戦略により、開発や生産の手法も抜本的に見直さなければならないからだ。

 こうした中で、日産自動車は今年2月、2013年から発売する新型車から「CMF(コモン・モジュール・ファミリー)」と呼ばれる新しい開発手法を導入すると発表した。これはまさにプラットホーム戦略の見直しであり、自動車のアーキテクチャーが変わるかもしれない「設計革命」であると筆者は感じる。

 筆者は日産の発表会に参加するともに、キーマンである「CMF」を担当した3人のエンジニアに単独インタビューした。坂本秀行常務執行役員、山本浩義ルノー日産アライアンス共通プラットホーム・共用部品担当部長、吉澤隆ボディエレクトロニクス開発部長の3氏である。以下に述べるのは、3氏のインタビューに筆者が追加取材で得た知見を加えたものである。

 まずCMF導入の狙いは、商品力の向上とコスト削減という一見トレードオフになりがちな課題を、サプライヤーも含めて同時並行で解決するためだ。

 CMFでは、車体の構造を大きく、エンジンルーム、コックピット、サスペンション周辺の前部、車体重量を支える後部の4つのモジュールと電子制御という「4+1ビッグモジュール」に分ける。車種や車格の壁を超えて共通化したモジュールの組み合わせで造っていくため、従来の「プラットホーム」という概念が消える。

 従来のプラットホームの中核をなすアンダーボディーは、CMFの構造ではサスペンション周辺の前部と車体重量を支える後部がそれに該当する。そう考えると、CMFではアンダーボディーに加えてエンジンルーム、コックピットまで共通化領域が拡大しており、共通化という概念がこれまでのアンダーボディー中心から車全体に及んだと見ることもできる。

 従来のプラットホーム共通化戦略とは、金型など設備投資抑制に主眼が置かれているため、金型投資が大きなウエートを占めるアンダーボディーの共通化のことであった。ところが、前述したように同じアンダーボディーにしていながら、他の部品は別に設計し直すため、かえってコストが上昇するケースもあった。

 このため、設備投資抑制という考えよりも、1台あたりのコスト低減という考えを強めていくことが必要になった。CMFの究極の目的は、台あたりコストを下げることなのである。

 山本部長はこう解説する。
「販売が200万台程度の頃は投資を抑える発想の開発が効率的だったかもしれないが、今やルノーと合わせて800万台近くを売る状況になると、投資抑制よりもピースコストを抑える方が大きな効果があがる。そして浮いた資金を環境や安全といったような新しい技術に回していくというサイクルを作らないと様々なマーケットに対応できない。ピースコスト抑えるということは、部品費を抑えるという考えです。ボリュームを出すことで、効率がもっとあがる」