“モータ”と聞くと、既に成熟し切った枯れた技術のような気がしますが、そんなことはありません。ハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)といった電動車両、そして産業用機器などに向けて、様々な改善や新たな試みが続いています。例えば、ここ最近、ネオジム磁石の材料高騰を受けて、永久磁石を利用しない駆動用モータに関する発表が相次いでいます。2012年6月14日には、英Jaguar Land Rover社と英Ricardo社などが、スイッチト・リラクタンス(SR)モータを共同開発することを明らかにしました(Tech-On!関連記事1)。

 SRモータは、突極構造を備えるロータとステータの間で生じる磁気抵抗(リラクタンス)の差を利用してロータが回転するというもの。既に、英Dyson社のサイクロン式掃除機などで採用例はあるものの、同モータは高回転での利用には最適ですが、低回転時のトルクが小さいことや、ロータとステータにある突起部分に磁束が集中してしまうことで、騒音や振動が大きくなるのが課題です。

 それでも、こうした課題を解決できれば、永久磁石を使わずに済むため、将来技術として期待が集まっています。日本では、日本電産が、SRモータを手掛ける米Emerson Electric社からMotors&Controls事業を買収して開発を進め、試作品などを展示しています(Tech-On!関連記事2)。この他、東京理科大学や長崎大学などがSRモータを応用した研究を進めています。

 一方、市場導入が相次いでいるHEVやEVでは、駆動用モータの改良に全力で取り組んでいます。例えば、トヨタ自動車は2012年12月に発売した新型HEV「アクア」で、小型化(薄型化)を図るため、ステータに占めるコイルの割合である占積率を10%高めました(Tech-On!関連記事3Tech-On!関連記事4)。従来の丸線に替えて平角線を採用したことで、重ねて巻く際のすき間を小さくしています。加えて、コイルをステータのコアに巻く際の折り返し部(コイルエンド)の幅を短くしています。

モータの構造を見直して高効率化


 この他、HEVやEVでは高回転域でリラクタンス・トルクを活用できるような磁石の最適な配置をはじめ、ロータやステータの形状設計を実施しています。電動車両に向けた駆動用モータは、これまでの産業機器用モータとは異なり、定格運転の効率だけで性能を判断できません。例えば、自動車では坂道を上る際の低速・高トルクの状態から、高速道路を巡航する際の高速・低トルクの状態まで、幅広い運転領域を必要としています。そのため、モータは低回転から高回転までのどの領域でも、高い効率が求められています。

 こうした中、モータの構造自体を見直す動きが始まっています。回転数に応じてモータで発生する磁束を変化させる研究開発が盛り上がっています。特に注目なのが、可変磁力方式です。永久磁石の磁力を変化させることで、回転数に応じて最適な磁束を実現できるというものです。実際、東芝や安川電機などが研究事例を学会などで発表しています。

 実は、この可変磁力方式のモータの開発動向について、2012年6月29日に都内で開催するセミナー「EV/PHEVの次世代要素技術を知る<モータからインバータ、電池、キャパシタ、ブレーキまで>」で、東芝で長年研究開発に携わっていた東洋大学 理工学部 電気電子情報工学科 教授の堺和人氏に講演していただきます。

 同セミナーは、「モータ編」と「電池、キャパシタ、制御、補機類編」があり、モータ編ではさらに、トヨタ自動車に駆動用モータ技術の最新動向を、日産自動車に駆動用モータの制御技術を解説してもらいます。この他、多摩川精機に駆動モータ用回転角度センサについて、小田原エンジニアリングにEVやHEV用モータの最適な巻線方法と最新の設備動向について解説していただきます。電動車両の次世代技術に関心のある方はぜひご参加ください。