ザインエレクトロニクスがアナログ・ディジタル混載システムLSI(大規模集積回路)の事業を展開していたことから、半導体のアナログ・ディジタル回路技術を研究している安田准教授と引き合わせて、産学連携の効果を期待したようだ。法政大にとって、技術系ベンチャー企業とのつながりが、これからは大事になるとの読みによるものと推定される。

 ザインエレクトロニクスの飯塚社長は当然、多忙なために、法政大の安田准教授とのザインエレクトロニクスの窓口は当時、第一ビジネスユニット長を務めていた岡村氏になった。実は、安田社長も岡村取締役も法政大工学部で電気・電子工学などを学んだ同級生(学年が2年異なっている)だったが、「学生当時は、お互いに面識がなかった」という。

 2001年8月に、ザインエレクトロニクスはJASDAQに上場した。このため、事業を拡大させる事業資金を得て成長期に入ったベンチャー企業として、事業拡大を担う若手人材を求めていた。ザインエレクトロニクスとしては、法政大の教員と面識を持つことで、新卒採用時の機会を増やしたいという意図もあったようだ。

“音響技術素人”による大胆な発想のデジタルスピーカーに着目

 当時、ザインエレクトロニクスの社員だった岡村氏は、安田准教授の「デジタル直接駆動型スピーカの解析と高性能化」の研究成果に強い興味を持った。独創的な発想だったからだ。

 安田社長も岡村取締役も半導体回路の専門家ではあっても、オーディオ装置などの音響技術の専門家ではなかった。実際に、デジタル・アナログ信号処理技術「Dnote」を組み込んだデジタルスピーカーは、複数のコイルを使って音としての出力を制御するという従来の音響技術とは異なる仕組みを用いている(図1)。安田社長は「複数のコイルを入力データに応じてオン・オフさせ、入力インピーダンスを離散的に変えて、出力パワーを制御するという従来のオーディオスピーカーとは仕組みが異なっている」という。従来の発想とかなり異なっているのである。「最先端の半導体技術とデジタル変調技術を組み合わせることで実現した」と、岡村取締役は説明する。

(注)デジタル・アナログ信号処理技術「Dnote」の技術説明は、Tech-On!サイトの記事「アナログとデジタルの垣根を壊せ、Intelが認めた日本のベンチャー」を参照

図1○デジタル・アナログ信号処理技術「Dnote」の模式図
(Trigence Semiconductor提供)
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 安田准教授の「デジタル直接駆動型スピーカの解析と高性能化」の研究成果に興味を持った岡村氏は、実用化・事業化の可能性を安田社長と議論し始めた。まず、特許などの先行技術調査をしたところ、こうした技術は特許出願されてなく、独創的な要素技術に育つ可能性は十分にあると分かった。

 実は、安田社長と岡村取締役は、法政大の同級生であるという点に加えて、東芝に在籍したという職歴でも共通点があった。ただし、大企業の東芝では仕事上はほとんどつながりがなく、実態は面識のない社員同士だった。

 安田社長は、1988年に東芝に入社して研究開発センターに配属され、半導体回路などの研究に従事した。1996年からは、法政大の非常勤講師として教育にも携わった。この非常勤講師の職歴が、後に法政大の教員になる布石となったようだ。

 安田社長は、デジタル・アナログ信号処理技術のユーザーと直接向き合いたいと考えて、2000年にAD/DCコンバーターの専業メーカーである米バーブラウン傘下の日本バーブラウンに東芝から転職した。さらに、2001年に米国テキサスインスツルメンツ(TI)がバーブラウンを買収したために、結果的に日本テキサスインスツルメンツ開発部の社員になった。