サムスンはまず「よいけど高い」ではなく、「高いけどよい」という微妙なさじ加減でアジア市場、世界市場で売り上げを伸ばしていきました。「よいけど高い」と判断されたのは日本製品の方だったのです。

 サムスンは今も、なりふり構わない広告宣伝をグローバルで続け、販売奨励金を積み上げています。彼等はブランドを手に入れるために涙ぐましい努力を世界中で行っているのです。

 もし、このサムスンが「4スクリーン(画面)戦略」を推し進めるというなら理解できるのです。単体の商品がより市場で力を持っているからまず売れる。そしてそれが連携すると囲い込みに繋がるからです。囲い込みの罠があっても、まず最初に買ってもらわないことにはその戦略は成立しないからです。

 まず最初に買ってもらえるブランドになること。これがサムスンが強烈に意識していることだと思います。

それでも次代の製品を開発するために

 アップルは体験を売り、ブランドを確立してきました。そのために、iPhone、iPad、Macbook等を通じてアプリやコンテンツを販売するエコシステムまで構築しています。それがよりアップルのユーザー体験の質を高め利便性を高め、更にアップルのエコシステムの中でビジネスを行う企業にとってもメリットのある仕組みになっています。

 サムスンのギャラクシーにはそれらはありません。OSはグーグル製であり、エコシステムもグーグルが提供しており、自社では持っていません。この点は今の日本メーカーの立場と似ています。

 日本メーカーやサムスンが持っているのは、そういったエコシステムの出口である機器、ユーザーとエコシステムとのインターフェイスであるスマートフォンのハードウエアだけです。

 ですから、この出口の機器、ハードウエアとしての機能やデザインを高め、ユーザーの所有感などの体験を演出しないと製品の魅力はなくなってしまいます。だからこそ、サムスンは有機ELディスプレイを採用し、画面を大型化するという消費者がパッと見てわかる違いを出そうとしています。このあたりの思いきった攻めの戦略が日本メーカーにはできていません。

 さてiPhoneは、ギャラクシーに比べると今のところ画面サイズは小さく、有機ELも採用していません。それでも独自のOSを進化させ、他の追随を許さない洗練したデザインで他のスマートフォンの追撃をかわそうとしています。

 このスマートフォンの先頭を走る両社は、それぞれの立ち位置が違うからこそ、それぞれの尖がりに注力して差別化しようと努力しているのです。消費者から見て抜きんでた特徴を備え、ブランドや性能、機能、デザイン等が購買意欲をそそる製品がスマートフォンの世界ではiPhoneとギャラクシーということでしょう。

 日本企業にも特徴のある製品をどんどん出してくるようになって欲しいと思っていますが、まだまだ結果は出ていません。例えば、サムスンが発売した新製品にギャラクシーノートがありますが、この製品に採用されているペン入力技術は日本のワコムから提供されています。日本国内に基礎的な技術がありながら、なぜあのような尖がった応用製品を日本メーカーが出してこれないのでしょうか?

 陳腐化した事業に全力を傾けるのはナンセンスです。アメリカでは日本製のテレビは大幅値引きされた客寄せの目玉商品にされていることが多くなっています。この今のテレビに注力しても利益は得られません。今以上の高精細テレビなどにシフトする動きもありますが、充分な利益が充分な期間得られるという見通しはあるのでしょうか?

 ちょうど2年前に私は「3Dテレビ戦略に潜むワナ」というコラムにこう書きました。

「3D機能を前面に出したテレビを販売すれば消費者がそれを欲しがるだろうという前提に沿って立てられた戦略により価格維持が困難だと私が思うのは,先に述べたとおり3Dテレビがハリウッドやテレビメーカーの思惑から出てきたプロダクトアウト型の製品だからです。そしてその思惑通りに3Dテレビが消費者のニーズ,ウォンツを喚起するに充分な製品としてのパワーを持つとは私には思えないからです。ここで私のいう製品のパワーとは,製品戦略,マーケティングにおいて,ニーズに合った商品をきちんと求めている人に届けていることで得られるものです」

「目の前に存在して認識できている問題を,直線的,換言すれば左脳的・解析的に既知の方法で解いていっても,文化を醸成できる新しい製品は生まれません。
 どのような問題が潜在的に存在しているかを直感的,右脳的に認識し,その問題を解決してくれる製品を生み出し,幅広い人々がそれを受け入れるという新製品開発のアプローチが今求められていると思います。言葉を換えて言えば,工学的なアプローチではなく,比較文化論的・社会学的アプローチがこれからの新製品開発には必要となると考えています」

 これからの製品開発は、新しい問題を認識し、問題を自ら設定することが必要になります。アップルのiPhoneは従来の問題解決型、即ち左脳使った解析的なアプローチでは作れなかったのです。