例えばシャープは、液晶テレビをはじめ様々な家電製品をB2Cビジネスとして展開しています。もちろん他の家電メーカーと同じく、液晶ディスプレイパネルや部品もB2Bビジネスとして他社に供給しています。今回の業績不振はこのうちの液晶テレビ事業が大きな割合を占めています。

 この状況を打開し、経営を立て直す戦略としてシャープが選んだのは台湾Hon Hai(鴻海)グループとの提携でした。これは報道されている以上に大きな意味を持つと私は考えています。

 B2Cビジネスで戦略を誤ってしまい業績が不振となり、これを挽回する次の戦略として同じB2Cビジネスで新しい製品やビジネスモデルを打ち出したのではないからです。消費者に受け入れられる新しい製品やビジネスモデルを打ち出せなかった結果が業績不振に現れていることは誰にも否定できないでしょう。更にB2C事業ではこの先事業を立て直せないと判断したのですからこのまま行けば経営は泥沼状態になっていくのは目に見えています。それだからこそ、シャープが取った戦略は、巨大EMSを運営するB2Bの雄と手を組むことだったのです。

 これは大きな意味を持ちます。シャープは自らのB2C事業を正面から立て直すのではなく、B2B事業に大きく舵を切ったのですから。

 B2C事業では、市場のニーズと作り手、即ち供給側のシーズのバランスが非常に大事です。そしてこれらがマッチしていないと市場には決して受け入れられません。富士フィルムは市場の変化を察知してフィルムカメラ依存から脱却してデジタル化を急ぎましたが、同業の巨人コダック社はそれができずにとうとう倒産してしまいました。

 B2Cビジネスをもう少し考えるために時代を少し遡ってみましょう。よく言われることですが、アナログ全盛の時代は技術そのものが高い参入障壁となっていました。以前は世界の半分である自由主義経済圏の先進諸国が大きな市場であり、比較的高機能で高品質の製品がその市場から求められてきました。日本企業はその延長上で発展してきました。

 ところが、共産圏経済の崩壊による世界市場の統合、中国の市場開放で一気に市場が広がり、次に新興国の発展が起こり、様相が変わってきました。市場が先進諸国から新興国にシフトしていたのです。同時に技術的にもデジタル化によるB2C製品の製造への参入障壁がどんどん低くなります。

 同様の製品が世界に溢れるようになってきました。そのような状況下では、即ち同じような機能、性能の製品が溢れかえるようになると市場原理として価格競争が起こります。

 日本企業はこれまでの成功体験から、よいものは売れると高機能商品を作り続けましたが、市場は先進諸国から新興国に移っており、市場の消費者の要求は変化していました。「よいけど高い」商品は売れなくなり、市場原理による「安い」商品か、消費者にとって魅力がある「高いけどよい」商品しか生き残れなくなったのです。日本企業が気付かないうちに市場のプレーヤーとルールが少しずつ変わり始めていました。