2012年6月5~7日に開催されたゲームの祭典「E3」に参加しました。今年は、任天堂の新しい据え置き型ゲーム機「Wii U」の対応ゲームや機能などの詳細が明らかになりましたが、同社も含め、Microsoft社やソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)から新しいゲーム機の発表はありませんでした。そのため、ゲーム機に関しては「不作の年」かもしれません。
 しかし、E3出展各社の展示内容や発表内容は多岐にわたり、ゲーム業界やエレクトロニクス業界にとっては、むしろ「豊作」だったと思っています。詳細については、日経エレクトロニクス7月9日号や、6月28日開催予定のセミナーでご紹介する予定ですが、この中から本ブログでは、ゲーム機とスマートテレビの関係について紹介したいと思います。

 E3では毎回、Microsoft社や任天堂、SCEの3社のゲーム機メーカーは、それぞれ大きな発表会を催します。その3社の発表会を聞いて感じたのは、「スマートテレビ、うちは買わないかもしれないな」ということです。既にそうですが、据え置き型ゲーム機を通じて、映像や音楽などの各種コンテンツを視聴できますし、Webページも閲覧できます。これらはスマートテレビで可能になる機能だと思いますが、今あるデジタル・テレビにゲーム機をつなげるだけで実現できるわけです。
 PS2が登場した時代からこうした流れはありましたが、最近はさらに加速しています。今回のE3でも、ゲーム機メーカー各社は、各種コンテンツの配信やインターネット接続機能についての強化策を発表しました。例えば、Xbox 360では、Internet Exprolarの提供を2012年の秋から始めます。

 実際、据え置き型ゲーム機をゲーム目的以外で利用する人も増えているようです。E3の会期中、日本のあるゲーム開発会社の米国オフィスの女性スタッフとお話しする機会を得ました。その中で印象的だったのが、「私、ほとんどゲームで遊ばないんです。でも、動画や音楽の配信サービスを利用したくて、Xbox 360を買っちゃいました。周りのみんなも持っていますし。」という話です。日本にいるとあまり感じませんが、北米市場におけるXboox 360の存在感は非常に高い。ジェスチャー入力コントローラ「Kinect for Xbox 360」の大ヒットも手伝っていることは確かですが、この方のように、映像や音楽配信サービスの拡充がその一助になっています。

 ゲーム業界は、インタラクティブ(双方向)なコンテンツの扱いに長けています。スマートテレビの登場によって、扱うコンテンツがよりインタラクティブな方向に向かっている中で、ゲーム業界のノウハウを活用する場面が増えるわけです。

 私自身もゲーム業界のインタラクティブ性に魅了されています。例えば、私はここしばらく「テレビ」をほとんど利用していません。だからといって、テレビ番組や動画などを見てないわけでもありません。実は、ゲーム機とパソコン用モニターを接続して視聴しています。テレビ番組については、PS3とPS3用地デジ録画・視聴キット「torne」を利用しています。torneは、ゲームに由来するさくさくとした快適な操作性が特徴です。この快適性を一度体験すると、既存のテレビのリモコンの緩慢さには耐えられません。

 Xbox 360も、Kinectのジェスチャー入力操作と音声認識機能による操作で、より快適な操作感を提供しようとしています。

 しかも、ゲーム機メーカーは、据え置き型ゲーム機とテレビの関係を変えようと試みています。例えば任天堂は、Wii Uのタブレット型コントローラによって、テレビと据え置き型ゲーム機の関係を変えようとしている。これまで据え置き型ゲームは、テレビの画面を「間借り」する形でした。いわば、テレビが「主」で、ゲーム機が「従」なわけです。ところが、Wii Uでは、タブレット型コントローラの画面でもゲームを遊べるので、必ずしもテレビの画面を使わなくてよい。これまでのテレビとゲーム機の主従関係に縛られなくなるのです。

 加えて、タブレット型コントローラを通じてテレビの電源を入れられます。従来は、テレビの電源を付けてからゲーム機の電源を入れることが多かった。Wii Uならば、その順番を変えられます。

 そもそも、テレビは一度購入したら、少なくとも5年間は使い続けるでしょう。日本の場合を考えると、数年前のエコポイントや2011年7月のアナログ停波の影響で、リビングの大型テレビの買い替えが進みました。そうしたユーザーが次に大型テレビを買い換えるのは2015年前後ではないでしょうか。その前に、PS3やXox 360のサービスが拡充され、Wii Uは2012年中に登場します。そうなると、ますますスマートテレビの存在意義が薄れそうです。

クラウド・ゲームがカギに


 少々長くなってしまいましたが、これらが私自身がスマートテレビをしばらく必要としない、と感じた理由です。

 もちろん、スマートテレビ側も負けじといろいろな対策を講じています。例えば、ジェスチャー入力機能や音声認識機能を導入したり、ハードウエアの処理性能を上げたりしています。中でもゲーム機メーカーにとって無視できない存在になりつつあるのが、クラウド型のゲーム配信サービスです。

 同サービスでは、サーバーでゲームの演算処理などを行い、その結果を映像として、テレビやタブレット端末などのクライアント機器に伝送します。クラウド型ゲーム配信サービスは2010年ごろからにわかに注目を集めましたが、当時は遅延時間が長かったり、ゲーム数が少なかったりとゲーム専用機のゲームに見劣りする部分がありました。しかし、この状況は急速に改善し、家庭用ゲーム機並みの品質のゲームを安価に提供できるようになってきました。

 これに飛び付いたのが韓国メーカーで、クラウド型のゲーム配信サービスに対応するスマートテレビを次々と発表しています。Samsung Electronics社は米Gaikai社に、LG Electronics社はGaikai社や米On Live社のゲーム配信サービスに対応する大型テレビを発表しています。両社は、ゲーム専用機を開発することなく、据え置き型ゲーム市場に参入した、との見方もできます。
 
 もちろん、「テレビ+据え置き型ゲーム機」と「スマートテレビ+クラウド・ゲーム」といっただけでなく、「テレビ+スマートフォン(タブレット)」という選択肢も無視できません。スマートフォンとタブレット端末のゲームをテレビ側に出力して遊ぶわけです。無線LANの他、携帯機器向けデジタル・インタフェース「MHL」の普及で、スマートフォン、あるいはタブレット端末とテレビを接続する環境が整ってきています。

 これら三つの選択肢の他にも、セット・トップボックス(STB)を活用する方法などもあります。リビングにおけるエンタテインメント機器の主役は何になるのか。このテーマを追い続けつつ、6月28日開催予定のセミナーで参加者の方々と議論できれば、と考えています。