スポンサーシップ:最後に笑ったのは誰だ

 まず「スポンサーシップ」です。大はオリンピックから小は商店街のイベントまで、いわゆる協賛スポンサーとなる機会は巷にあふれていますが、多分に主催者や地域との「お付き合い」の意味合いが含まれておりその効果が検証されにくい手法です。特に大型イベントはROIに問題があると感じている方は多いと思いますが、2010年サッカーワールドカップ・南アフリカ大会の試合会場に突如として「中国・英利」という漢字の看板が出現したのを覚えておいででしょうか。これを見た時世界中が大いに笑ったと思います。何といっても中国人と日本人以外は漢字は読めませんし、世界から集まった観衆やテレビ中継の視聴者に読めない看板など全くもって無意味です。しかも英利は大方の中国人にとってもなじみの薄い名前でした。まして、大会のスポンサー権利料は30億円ともいわれる高額です。

 しかし最後に笑ったのは英利の方でした。中国第3位、世界第4位(ということは上位4社中3社が中国企業、ということですが)のソーラーパネルメーカーである英利の認知度は最初の試合終了後には前日の4.25倍に跳ね上がりました。もっと重要なのは、大会期間中に英利の株価が8ドル41セントから12ドル50セントへと、48.6%の値上がりを示したことです。明らかに、投資家たちは中国企業による「グローバルブランド化作戦」の経営ビジョンを好意的に評価したのです。加えて、これは「ブランド戦略はB2C企業向けであってB2B企業には無関係」という昔ながらの常識へのチャレンジでした。しかしちょっと考えればわかるように、クライアント企業のソーラーパネル購買担当者であっても家に帰れば普通のサッカーファンであるケースが多いはずで、ワールドカップという世界の耳目が集まるイベントを通して超短期的にブランド認知向上を図った英利の戦略は的を射たものでした。

 翌2011年、英利はドイツ・ブンデスリーガの名門、バイエルン・ミュンヘンとの提携を発表します。この提携内容で注目されるのが、バイエルン・ミュンヘンのショップで英利のソーラーパネルを販売できるという条項です。英利はヨーロッパを重点市場とみなし、中でもクリーンエネルギー先進国のドイツで事業とブランドを発展させることが将来への成長に重要だと考えたのでしょう。すべてはグローバル戦略にのっとった意思とスピードに満ちた決断と実行なのです。決して笑って見ていてはいけない、というのが私たちへの教訓だったと思います。

シンボル:ブランド記憶のトリガー

 「シンボル」は社名ロゴやシンボルマーク、スローガンにとどまりません。バンコクのConrad(ヒルトングループの高級ホテルチェーン)には、Conradの音楽があります。ホテルが自分たちが目指すサービスとブランド価値を表現する曲を集めてコンピレーションCDを作っているのです。瀟洒(しょうしゃ)で居心地の良いこのホテルのファンである私は部屋に備え付けてあるVolume1、2の2枚のCDを迷うことなく購入しました。ホテルの雰囲気にぴったりあった都会的でリラックスできるおしゃれなジャズやボサノバを聴けば、自宅で(気分だけは)Conradバンコクの世界に浸れる、というわけです。同時にそれはブランドと顧客の価値観の共有が深まることを意味します。

 色を自ブランドのシンボルとするのもよい戦略です。「ティファニー・ブルー」と聞けば多くの人が宝飾品の入ったキレイなライトブルーの小箱を連想するでしょう。昨今、企業にとっては環境への配慮が必須ですから誰しもが緑色のシンボルマークなどを使って「グリーン企業」を標榜しています。そんな中、フォルクスワーゲンは「Think Blue」をテーマにライトブルーをシンボルカラーとしたエコキャンペーンを展開しています。他社のキャンペーンに埋もれない大変賢いやり方だと思います。通常色そのものには知的所有権を主張できませんが、他のデザイン要素やパッケージなどと組み合わせれば、自社ブランドのシンボルカラーとして登録することも可能です。

 また、有名俳優やスポーツ選手をブランドシンボルとして起用するのも特にここ中国では目立ちます。しかし、多くのスター達は複数の企業や製品と契約しており広告やイベントで大量に露出がありますから、見る側はそのタレントがどのブランドをシンボライズするのか分かりにくくなっています。そもそも契約料も高額で使い方・エリア・メディアにも縛りがかかりますので、広告主とタレント側の間の揉めごとも増えてきます。

 私は自分のセミナーではこうしたスター達の代わりとしてオリジナルの「アニメキャラクター」を使うことをお勧めしています。これは世界中で使われている手法ですが、古くは佐藤製薬の「象のサトちゃん」からNECの販売促進用キャラクター「バザールでござーる」など、日本人はキャラクターの使い方に長けています。アニメキャラの優位点は、(1)値段が安い、(2)文句を言わない、(3)年を取らない、(4)スキャンダルと無縁――など多々あります。CMに使おうがパッケージデザインに組み込もうが着ぐるみにして街でティッシュを配らせようが、文句一つ言わずに何十年も働き続けるアニメキャラは使い勝手が最高です。

プログラム:独自の活動でブランドを強化

 「プログラム」とはブランドのステークホルダー(顧客、取引先、投資家、マスコミなど)との関係を強化する目的で長期的に展開するオリジナルの活動を意味します。例えば、ミシュランは自動車タイヤの著名ブランドですが、車を運転しない人たちにとってはむしろ「ミシュラン・ガイドブック」で身近に感じられるブランドでしょう。車で旅をすれば滞在先で美味しいレストランを探す必要があるだろう、という理由で始まったこのレストランガイドの出版は世界中の大都市をカバーしており、すっかり「ミシュラン」ブランドの代名詞となりました。

語り部:ブランドの代言者

 急速に成長するブランドには、その「語り部」として企業や製品を代表してブランドのビジョンやストーリーを雄弁に語ることのできるスポークスパーソンが付き物です。スターバックスのHoward Schultz、フェイスブックのMark Zuckerbergなどの創業者リーダーが思い浮かびますが、面白いのはサブウェイのスポークスマンです。Jared Fogleという名のアメリカ人学生が、1999年に「私はサブウェイで245ポンドの減量に成功しました」と報告して雑誌に取り上げられました。彼曰く、毎日のウォーキングと昼食・夕食にサブウェイでサンドウィッチを食べ続けたことで、クラスメートも自分と気づかないほど痩せることに成功したとのこと。彼が以前にはいていた巨大なジーンズを両手にしながら語るその写真のインパクトで一気に有名人になり、その後サブウェイのTVコマーシャルをはじめとする対外コミュニケーションに起用されるようになりました。折からの健康ブームに乗り「生き証人」となった彼のストーリーは広告やイベント、独自プログラムなどでうまく活用され、サブウェイはファストフード・チェーンでありながら健康的イメージをブランド資産化するのに成功したのでした。

 残りのBrand Energizers、「共感」「口コミ」「体験」「一体感」についてはまた稿を改めてお話しします。