図1 レーザ光を走査する仕組み(図:Prysm社)
図1 レーザ光を走査する仕組み(図:Prysm社)
[画像のクリックで拡大表示]
図2 LPDを積み重ねた大型ディスプレイ例(写真:Prysm社)
図2 LPDを積み重ねた大型ディスプレイ例(写真:Prysm社)
[画像のクリックで拡大表示]
図3 LPDを積み重ねるイメージ(図:Prysm社)
図3 LPDを積み重ねるイメージ(図:Prysm社)
[画像のクリックで拡大表示]
図4 蛍光体の劣化評価(図:Prysm社)
図4 蛍光体の劣化評価(図:Prysm社)
[画像のクリックで拡大表示]
図5 左はエッジ・ブーストなし、右はエッジ・ブーストあり
図5 左はエッジ・ブーストなし、右はエッジ・ブーストあり
[画像のクリックで拡大表示]
図6 レーザ光の強度測定の流れ
図6 レーザ光の強度測定の流れ
[画像のクリックで拡大表示]

 「新発想の大型ディスプレイが登場」というタイトルで、『日経エレクトロニクス』2010年2月22日号のNEレポート・コラムで紹介した、米国ベンチャー企業Prysm社のLaser Phosphor Display(LPD)。Blu-ray Discレコーダーに使われる青紫色半導体レーザを20個束ねて光源とし、そこから放たれるレーザ光を、RGBそれぞれの蛍光体でサブピクセルを構成したスクリーンの背面に照射・走査して映像を出力するディスプレイです(図1)。いわば、ブラウン管の電子銃の代わりに半導体レーザを使ったような形です。

 Prysm社によれば、顧客へのLPDの納入が2011年に始まり、2~3カ月前から本格化したとのこと。先日、米国ボストンで開催されたディスプレイ関連の国際学会「SID 2012」では、ディスプレイの特性などを発表しました[論文番号:72.5L]。

 LPDの特性は、画面寸法が25型、縦横比4対3、画素数が320×240。画面輝度は400~800cd/m2、コントラスト比は10万対1。これを縦横に積み重ね、デジタル・サイネージや放送スタジオ用ディスプレイなどで使われるような大型ディスプレイを構成します(図2、図3)。大型ディスプレイの大きさだけでなく、曲面や凸型、凹型といった形状など想定顧客のさまざまな要望を考慮し、Prysm社はLPDの大きさと画素数を上記の値に決めたといいます。

 実際、あるテレビ局に納入した大型ディスプレイ(LPDを縦4×横8配置)、新たに受注した大型ディスプレイ(縦5×横10配置)、欧州のある高級衣料店舗に納入する5.6m×6.9mの大型ディスプレイ、ある電機メーカーと商談を進める704型の半円状ディスプレイ(高さ1.9m、長さ17.8m)はいずれも、同じLPDを多数組み合わせることで実現しています。なお、高さ3m、幅30mの大型ディスプレイも受注しており、8月ごろには米国に設置されるようです。

 LPDに限らず、例えば同サイズの液晶モニターを使えば同様のディスプレイが出来上がるでしょう。大量生産する液晶であれば、価格も安くつくはずです。ではなぜ、LPDを使う大型ディスプレイの案件が増えているのでしょうか。Prysm社Vice President, Business Developmentの鈴木久之氏は、消費電力の低さ、画質、寿命の長さなどを挙げます。

 SIDにおける同社の発表内容によれば、消費電力は液晶モニターの約1/8。比較対象とした液晶モニターはバックライトにCCFLを用いる2007年モデルと古く、LEDバックライトを搭載する現行モデルでは消費電力が下がっているはずですが、それでもLPDとの差を埋めるのは難しいのでしょう。Prysm社によれば、LPDでは光の利用効率が高いことなどが消費電力の差として表れています。

 画質については、まず白色の色温度を2400Kから1万1000Kまで調整できることが顧客から高い評価を受けているとのこと。特に、衣料品を取り扱うなどデザインを重視する企業にとって、この特徴は貴重なようです。

 寿命については、SIDの発表で明らかにしました(図4)。画質に直結する蛍光体の寿命を評価すると、明るさと色味の変化は6万時間で5%以内にすぎません。レーザ光を上下左右に走査して映像を映し出しているので、レーザ光が蛍光体を照射している時間は短いことが影響しているそうです。Prysm社の発表資料によれば、6万時間の中でサブピクセル1個当たりのレーザ光照射時間は約47分であり、短時間で済んでいます。

 こうしたLPD単体の特性に加え、LPDを組み合わせたときの画面の均一性を高くできる工夫も顧客には好評だそうです。まず、LPDを複数個並べた際の個々のディスプレイのつなぎ目を見えにくいように工夫しています。もともとLPDは額縁が狭い上、縦横に配置するLPDとの隙間は0.4mmにすぎませんが、LPDで構成する大型ディスプレイに映像を表示した際にLPD間の切れ目が“網目”のように見えてしまいます。そこで、隣のLPDに接するピクセルを1.2倍明るくすること(Prysm社は「エッジ・ブースト」と呼ぶ)で、LPD間の切れ目を「ほとんど気にならないくらいになる」(Prysm社の鈴木氏)(図5)。

 さらにLPDの経時劣化を常時監視する機能も備えます。個々のLPDの色表現能力を工場出荷時に計測し、それを基準としておき、運用時にその基準からどれだけ変化しているのかを評価するというものです。その上で、LPDを複数個並べて使う実状況を考え、各LPDで劣化度合いを比較し、画質が各LPDで一緒になるように制御させています。一般に、複数個のディスプレイを使う大型ディスプレイでは、個々のディスプレイで劣化が異なるので、縦横に並べたディスプレイのそこかしこで「画面が暗い」「色が隣のディスプレイと違う」といった状況に陥りがち。Prysm社は、こうした大型ディスプレイ特有の問題を回避するために上記の工夫を用いました。

 LPDの劣化を評価するために、LPD内に光検出器を備えています。サブピクセルにレーザ光を照射しないタイミングで、ミラーを使ってレーザ光を光検出器に入射させて光強度を計測するというもの(図6)。20個搭載する青紫色半導体レーザの個々の劣化をモニタリングできるそうです。

 こうしたLPDの劣化確認は、インターネットを使って遠隔地でも観測可能。Prysm社はメンテナンス性の良さも自社の長所であるとアピールします。

 この他、アクティブ・シャッター方式の3次元表示にも対応できるとのこと。サブピクセルの蛍光体へのレーザ光照射が終わってから蛍光体の発光が止まるまでの時間はns(ナノ秒)と短いことから、右目用と左目用の映像が交わってしまうクロストークの問題が生じないそうです。技術的に立証済みといいます。

 Prysm社によれば、デジタル・サイネージなどの業務用ディスプレイを求める顧客は、理想とする形状や画質などでこだわりを持つケースがほとんどだそうです。今のところ、日本ではPrysm社製品の設置事例はありませんが、同社は日本での営業活動を今後本格化していきたいといいます。画質などで厳しい目を持つとされる日本市場でPrysm社がどのように受け入れられるのかに注目しています。