「なぜ孫さんの言うとおりの価格にしたのか、とよく言われますが…」――。産業技術総合研究所 太陽光発電工学研究センターの成果報告会において、特別講演のために壇上に上がった経済産業省 資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部 新エネルギー対策課 課長の村上敬亮氏は、このように切り出して笑いを誘いました。言うまでもありませんが、「孫さん」とはソフトバンク 代表取締役社長で自然エネルギー協議会の事務局長を務める孫正義氏です。

 会場には、2012年7月に始まる「固定価格買い取り制度」に向けて期待を膨らます太陽電池関係者、約600人が集まっています。村上氏はそれから約30分間、約600人の太陽電池関係者の前で、固定価格買い取り制度への思いを熱く語りました。

 買い取り価格を検討する調達価格等算定委員会の案では、10kW以上の太陽光発電については、税込み42円/kWhで20年間にわたって買い取ることになっています。42円/kWhは、10kW以上の施設の建設費を32.5万円/kWと算定し、これを基に「適正な利潤」を勘案した買い取り価格を設定し、さらに「施行後3年間は利潤に特に配慮する」ことから1~2%を上乗せして決まったものです。

 この価格について村上氏は、「高いと言われることはあっても、安いと言われることはない」と話します。そうした声に対しては、「既存の設備も含めて買い取った場合でも、標準家庭の負担額は100円/月で、缶コーヒー1本分です」と説明して理解を求めているということです。

 “高い”と揶揄される買い取り価格によって、「買い取り対象の再生可能エネルギーのうち、太陽電池の導入量が最も伸びるだろう」と村上氏は予測します。そして、「この価格を生かして、うまく商売してほしい。世界で勝てるビジネスを作り出してほしい」とエールを送りました。さらに「現在のモジュールの販売に満足せず、次の技術を生み出すことが、業界関係者の宿題である」と檄を飛ばしました。

 世界では、欧州市場の停滞による需要の減少、中国メーカーの価格攻勢などによって、厳しい競争が繰り広げられています。日本メーカーは、生産量で世界のトップ10にも入ることができず、劣勢が続いています。この固定価格買い取り制度をキッカケに、世界で勝てる新たな技術やビジネス・モデルを生み出せるのか――。村上氏の思いを太陽電池関係者がどのように受け止めて形にするのか、注目していきたいです。

 さて、ここで太陽電池や固定価格買い取り制度に関心をもたれた方に、お知らせです。日経エレクトロニクスでは、太陽電池の市場や技術を解説した別冊「太陽電池2012~市場の急変で加速する技術開発」を発行しています。日本を代表する技術者たちが、太陽電池の種類ごとに最新の開発状況を執筆した技術講座も収録しています。さらに別冊「太陽電池2011~巨大市場を目指して進む技術開発」では、変換効率40%超を目指した取り組みなども紹介しています。興味のある方は、ぜひお買い求めください。