こうした中、ノルマを果たせなかった26歳のある女性公務員が、上司から「人が集められないなら、自分が行くしかないだろう」と言われ、新しいiPadの投入直前で最高に忙しかった11年12月から約1カ月間、成都工場で夜勤で働いたという。その月の給料は役所とフォックスコン双方から出た。しかし、慣れない夜間の作業で体調を崩し、フォックスコンから支払われた1130元の給料は、ほとんど治療代に消えたという。この女性公務員はまた、四川省綿陽市の政府が集めて送り込んできた約500人の中に、大学卒業後に幹部候補生としてある村に赴任した公務員がいたと指摘。ノルマを果たせず工場で働いた公務員が複数いたことを紹介している。

上海郊外の松江にあるフォックスコングループの工場
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 経済観察報によると、フォックスコン深セン工場の関係者は4月19日、ピーク時に12万人いた成都工場の工員が、11年10月には9万人、記事の出た4月末時点で6万人前後にまで減少したことを明らかにしている。同紙はまた、成都工場の離職率が極めて高く、部署によっては在籍期間が平均3カ月程度だと指摘。11年10月の国慶節(建国記念日)前後は特に辞める者が続出したため、残った社員の間では、人手不足が原因で、次世代iPadの受注をライバルの台湾Pegatron(和碩)社に持っていかれたとのうわさが広まったほどだったという。

 人が少なくなると、フォックスコンは当局に対して早く人を送ってくれと催促。これを受け当局は、四川省内のほか、陝西省など他省に出向いて募集活動を展開するという。毎日3000~5000人の新入工員が入ってようやく人手が足りるというから、想像を絶する規模である。

 離職率が高い原因について同紙は触れていない。いずれにせよ、1つの工場で5万、10万という単位の工員を確保し続けることが、中国では広東省や上海など沿海地区のみならず、四川省などの内陸でも、もはや簡単なことではなくなっていることの証左だと言えるのではないか。

 さらに、穴埋めに公務員が工場で働いているということよりもむしろ筆者の目を引いたのは、記事の中で匿名のフォックスコン社員が紹介していた、四川省がフォックスコンに与えているとされる優遇政策の数々だ。