IEKの視点

 中国の産業政策と台湾への影響について、われわれIEKの見解を以下にまとめる。

(1)中国の政策決定は不透明で行政が産業に関与、外国資本は「隠れコスト」に直面する

 中国政府の政策決定の過程は不透明なことが多く、行政が積極的に関与して産業の発展に影響を与えることもしばしばある。従って、台湾企業や外資系企業は、中国市場へ進出する際に、中国特有の不確実性とリスクに直面する。逆に言えば、中国企業(特に国営企業)には優位性がある。

 さらに、中国政府は産業政策の決定において、即効性にこだわる傾向がある。市場を規制するような政策が選択され、行政措置によって産業界に関与することが慣習的になっている。このため、外資系企業が中国市場に進出すると、想定外の「隠れコスト」に直面することになる。

(2)中国の産業政策は「自主」重視、閉鎖的な産業体系を構築

 中長期な政策を考察すると、中国はこれまでの「輸出志向、生産額成長」モデルからの転換を図っていることが分かる。内需拡大により、住民所得成長と生産額成長が一致するモデルへ切り替え、「収入倍増」と「安定な社会」を実現しようとしている。実現のカギは、中国の産業クラスタが自ら技術革新の能力を養成できるか否かにある。これが進めば、中国が台湾にとって有利な条件を提示してまで譲歩する場面は急速になくなっていく。

 台湾企業は、中国市場で提携する機会を、世界中の企業と競争しなければならない。中国が産業発展の目標設定でこだわるのが「自主」である。「自主的な核心技術(自ら開発したコア技術)」「自主標準(自ら制定した標準)」の発展を目標に掲げる。そして、海外の大企業が技術の輸出規制を緩和するように誘導する。そして、外資系企業にとって参入障壁の高い「自主性閉鎖供給体系」を構築する。目的は、技術イノベーションにおいても世界のトップ・レベルになることである。

(3)資源回流構造の早期構築が急務

 中国は、国家の重大専門プロジェクトに基づき経済成長モデルを実践して、中核技術を用いた国産品の製品化を推進する。国産初の製品についてはリスク補償機構注1)を整備している。今後10年で、国産初の製品の実績はどんどん上がる。外資系の大手企業は技術輸出規制を緩和せざるを得なくなり、中国での投資を拡大する。これにより、中国は技術イノベーションにおいても世界のトップ・レベルの国になろうとしている。

注1)国産初の製品が次々に生まれるように、中国政府は特別プロジェクトを生かして、国産1号機となる製品の使用リスクを補償する制度を施行しようとしている。保険料は中国政府が支払う。国産1号機の製品によって中国企業に損失が発生した場合、適当な補償が与えられる。この制度はまだ最初の構想段階である。

 中国は産業政策を通して、先行した国・地域とのギャップを埋めようとしている。中国国内生産比率を、産業発展の重要な業績指標と位置づける。従来の両岸(中国と台湾)の分業モデルを、徐々にゼロサム競争へシフトさせている。特に、台湾の重要技術を用いて、海外の大型工場で製造をしている産業にとっては、影響が大きい。産業の発展に必要な資源が中国にシフトしていることは免れない。

(4)中国市場の二面性に注意、国際提携やリスク警告監視を強化しつつ技術で差異化し続ける

 中国は新興産業において、世界最大級の市場の一つになるだろう。この市場は、少数の大型国策企業と、行政との関係が良好な大型民営企業の手に握られている。中国の大型企業の発言権は、今後5年で急速に高まるだろう。短期的には、台湾企業が優位な分野では、中国の大型企業にとって台湾企業はまだ魅力的である。それでも、中国市場の二面性を考慮すれば、ハイテク分野でも積極的に提携を結ぶことで、産業技術における中国とのレベル・ギャップを維持すべきである。中国の国策企業との提携のほかには、中国の科学技術系の中小企業との提携が考えられる。台湾は、科学技術系企業を通して中小企業の国際特許調査分析や国際的な技術交流を支援し、グローバルなイノベーションの力を高めることで、技術のリーダーシップを維持すべきである。