中国の産業政策による影響を分析

 中国が中長期産業政策を実行していく過程では、中国の既存の産業体系を維持しようと反発する動きが必ず出てくる。戦略的新興産業に関する中期産業政策によって、既存の産業体系をいかに変革できるのかについて、以降で検討する。

(1)戦略的新興産業の振興による産業体系の変革

 現在、中国の戦略的新興産業は初歩の段階である。技術と商品はまだ実用化に成功しておらず、政府の補助に頼らないと生存できない状況である。また、中国企業の自社の技術力は低く、技術や重要な部品については外資企業との提携に依存している。関連産業の集積も完全ではない。現状を変えるためにも、中国政府は政策を通して、新興産業を新たな柱にしようと、産業体系の変革を試みている。

表1 中国の戦略的新興産業政策のポイント(出典:工研院IEK(2012年4月)資料)
注1)使用コスト:消費者が該当新製品を使用するのに負担すべき総コストのこと。製品の耐用年数において、消費者が支払うべき消耗材料の購入、補完財の購入、製品の修理、メンテナンス費用などがある。注2)スイッチングコスト:消費者が旧製品の使用から新製品の使用へ転換するのに負担すべき総コストのこと。製品使用の学習コスト、関連行政手続の申し込みに関する手数料や税金などがある。注3)財政ツール:低金利または無利子融資、工場施設や土地の無料レンタル、減税補助金、研究開発奨励金などの財政手段により、政策実行のツールとすること。
[画像のクリックで拡大表示]

(2)IC設計産業の事例

 中国政府は、研究開発資源を新興産業領域の研究開発に投入し、IC設計産業を育成しようとしている。中国の半導体産業チェーンは不完全であり、IC設計技術は台湾や欧米諸国よりも遅れている。少数の留学生あるいはシステムベンダーが設立したIC設計会社の技術の進展は速いが、これを除くと、主流の半導体製品・技術の設計水準は低い。近年、規模のある中国のIC設計会社は、第3世代(3G)携帯電話機やスマートフォンなどのモバイル機器に焦点を合わせている。内需が中心であり、特に出荷量が多く、低価格のICを主に設計している。CPU、通信用、インターネット用、ハイエンドの民生機器用のICの設計は、いまだに海外に頼っている。そこで、中国政府はIC設計支援政策の重点を以下に置いている。

 (a)研究開発力を高め、産業規模を拡大させ、国内市場の自給率を高める。第11次5カ年計画の期間(2006~2010年)の半導体政策では、政府の資金を特定企業に直接投入することで、生産能力と生産金額を伸ばすことを目標にしていた。一方、第12次5カ年計画の期間(2011~2015年)においては、政府の資金を直接投入せずに、政府は金融市場メカニズムの操作を強化して金融市場における資金確保の障害を取り除き、先進技術と研究開発力の向上を目標として、技術革新能力とともに高いグローバル市場シェアを持つ半導体企業を育成しようとしている。これにより、2015年までに中国IC設計産業の規模は倍増し、営業収入は3000億人民元以上、世界シェアは14%以上を達成、そして国内需要の30%を満たせるようになると見通している。