過去には、韓国の大手企業が多くの日本人エンジニアを「土日アルバイト」に招き、また多くの「日本人顧問」を雇い入れることで、日本の技術を吸収していった。一方、台湾は、組織的に企業対企業の契約で日本から体系的な技術供与を受け、AU Optronics(AUO)社をはじめとしたパネル製造の専門会社を短期間で立ち上げることができた。韓国が「土日アルバイト」や「日本人顧問」から効率良く技術を吸収できたのは、既に大企業として様々な事業を展開し、多くの技術者も存在し、新たなFPD技術を吸収できるベースがあったからである。一方、台湾はパネル製造の専門会社を一から興すために、日本企業と契約して体系的な技術導入をした。この結果、現在では、韓国と台湾が世界のFPDパネル生産量を二分する力を得るまでに成長している。

傭兵を抱えて戦いに臨む中国

 現在も世界全体のパネル生産量の数%しか占めていない中国の状況はどうだろうか。結論から言うと、韓国や台湾とは異なる中途半端な取り組みが、現在の中国FPD産業の停滞状況を招いているといえるだろう。

 中国には、第4世代から第8世代クラスまで10を超える液晶パネル生産ラインが建設されている。これまで中国で投資された液晶生産ラインは、地方政府の強力な投資誘致と中央政府の認可を経て建設された。その中核となるパネル技術と生産技術については、どの企業も「自主技術である」と胸を張っている。しかし実態は、日本・韓国・台湾のエンジニアによる混成支援部隊の力に頼っており、日本・韓国・台湾のそれぞれのエンジニアが、多文化の中で奮闘しながら立ち上げている。

 これらのエンジニアの採用は基本的に個別契約であり、「一本釣り」の形で集められたメンバーである。それは言うなれば「傭兵」である。傭兵は基本的に一匹狼であり、組織よりは個人の利害で動く。高い給料をもらっていても、戦いが終われば次の行き先を探さなければならない。雇う方にとっても、一時的な戦力にはなるが、組織的に統一した力を発揮させることは難しい。この方法では天下を取ることはできない。一定のレベルまでは生産ラインを立ち上げて生産量を増やしていけるかもしれないが、技術進化が続き新しいFPDの世界が広がろうとしている中で、主導権を持ってFPD産業を成熟させるだけの力を獲得することは不可能である。

 一方、傭兵を送り出した側から見ると、品質や性能は別にして一定レベルの数のパネルが中国国内で生産されるようになれば、自国の産業にとってそれなりの影響、つまり「逆襲」を受けることになる。このような状況は、双方にとって大変不幸なことである。長年かけて蓄積してきた技術を何の対価もなく霧散させていくだけである。中国にとっても、技術を体系的・戦略的に生かせないまま、技術を成熟させることもできない。結果的に、双方がスマイルカーブの底でもがき苦しむだけで終わってしまう。これはFPD産業の発展にとっても大きな損失である。