これらの再編劇は、良くも悪くも日本企業が主役になってきた。事業が困難にぶつかった時に、国内企業同士での再編あるいは韓国・台湾企業との提携などを進めてきた。そこには「日本発の技術を日本の中で守りたい」という思いと、「日本にとどまっていては事業が成り立たない」という2つの状況が交錯している。FPD産業は今後、多様化の中でさらなる広がりを見せていく。今回の再編の結果は最終形態ではなく、今後も様々な動きが出てくるだろう。その時には、日本にとどまる海外に出ていくか、もっと厳しい判断が要求されることになるだろう。

多様化へ、さらなるFPD技術の開発と革新が必要

 前回述べたように、FPDはハイテク技術のかたまりである。大画面テレビ一つを取っても、視野角、応答速度、輝度、コントラストなど様々な視角特性を向上させるためのたゆまない開発努力が多くの技術者によってなされてきた。広視野角技術であるVAとIPSを例に取ってみても、数多くあるパネル・メーカーを二分する熾烈な開発競争が繰り広げられ、この開発競争から現在の高性能の液晶テレビが生み出された。

 これから拡大していく中小型パネル市場では、さらなる技術開発が必要になる。高性能なモバイル機器用ディスプレイを実現するためには、アモルファスSi(a-Si)に替わって、低温多結晶Si(LTPS)が求められる。さらに、液晶ディスプレイに替わる有機ELディスプレイへの期待も高い。しかし、LTPSや有機ELは、これまでのa-Siや液晶ディスプレイに比べて技術レベルは一段と高い。途中から参入する際の技術障壁も、さらに高くなる。

 現在、大型液晶パネル生産ラインの投資から第5世代クラスの生産ラインへの投資に計画をシフトさせようとしている中国のFPDメーカーが、この分野で成功するためには高い技術障壁をクリアする必要がある。最大の課題はエンジニア(技術者)である。この分野のプロセスおよび設計を中心とした多くのエンジニアが必要であり、これらのエンジニアが中国では決定的に不足している。

FPDは「装置産業」ではなく「エンジニア産業」である

 一般的にFPD産業では、「製造装置のレシピに製造ノウハウが入っていて、装置を導入し材料を買ってくればディスプレイが出来る」と思われているが、それは間違いである。過去、液晶ディスプレイが劇的な進化を遂げ、2000年初めまで誰もが不可能だと思っていた大画面液晶テレビの普及をわずか数年で実現できたのは、エンジニアのたゆまない開発努力があったからこそである。FPD産業はむしろ「エンジニア産業」と呼ぶべきである。特に、有機ELは液晶以上に技術障壁が高く、過去の技術蓄積と将来へのブレークスルーを成し遂げる優秀なエンジニアを多数必要とする分野である。「製造装置や材料を買ってくればすぐに出来る」という世界ではない。