中国FPD産業は、2004年頃に第5世代の液晶パネル生産ラインが稼働し、現在では第8世代クラスの生産ラインの投資に関する検討が相次いでいる。将来パネル生産が中国に一極集中するかのような「中国脅威論」があちこちで語られてきた。しかし、現在のパネル生産量は、まだ世界全体の数%にとどまっている。2007年頃から増えてきた太陽電池の生産量が、既に世界の50%に届く勢いで急成長したのに比べると、全く様相が異なっている。周囲の「予想」(この言葉は中国から見れば「期待」、海外から見れば「脅威」と置き換えられる)に反して、中国FPD産業は停滞状況にあると言って良いだろう。

 なぜ、このような状況に陥ったのか。その理由は2つある。1つは、大型液晶パネル生産ラインの投資額が巨額であることだ。いくら中国が積極的な投資で産業育成を図ろうとしても、数千億円クラスの大規模投資はそう簡単にはできない。中国の地方政府は各地域で産業育成を図ろうと、積極的な融資政策をしているが、それだけでは資金が足りない。市場からの資金調達も必要であり、中国といえども市場原理に基づく投資回収を考えざるを得ない。このため、日韓台の企業と同様に、巨額投資を決断しにくくなっている。

 2つ目の理由は、技術者の不足である。FPD技術は、ナノメートル・サイズの分子技術、マイクロメートル・サイズの微細回路加工技術、メートル・サイズの大画面製造技術の3つの技術を組み合わせたハイテク産業である。「製造装置と材料を買ってくれば、簡単に製造できる」と一般的には言われているが、この技術的な参入障壁は思われている以上に高い。液晶パネル産業を立ち上げた日本には、これら3つのハイテク技術を熟知した多くの技術者がいた。そして、後を追った韓国も日本からこれらの技術を必至に習得した。さらに、台湾に対しては多くの日本企業が積極的なアライアンスによって、これらの技術を供与してきた。

 一方、2004年頃に参入を開始した中国のFPD産業を顧みると、期待ばかりが先行していた感がある(関連記事『第1回「FPD China」、中国・昆山市で開催』関連記事『第2回「FPD China」、初日から多くの見学者でにぎわう』)。「韓国や台湾のまねをしていけば簡単にキャッチアップできる」と考えていたが、現実にはまだクリアできていない。技術者が決定的に不足しているのである。日本・韓国・台湾から技術者を個々に誘致するなど必至に技術導入を図ってきたが、技術障壁は思った以上に高く、しかもFPD技術の進化は非常に速い。現在もまだ進化の過程にあり、先端的な技術者をどんどん育成していかなければ追いつけないのである。

 このような状況を、中国FPD産業の関係者も理解し始め、技術のレベルアップを図ろうとしている。その直接の方法は、日本企業のリストラであぶれた技術者を個々に招聘することであり、既に多くの日本人技術者が海を渡っている。しかし、日本人技術者が単発的に技術を教えるだけでは限界がある。産業界全体でレベルアップを図っていかなければ、FPD技術の進化のスピードについていくことはできない。そのためには産業界を挙げた様々な取り組みが必要である。例えば、セミナーやコンファレンスなどの産業インフラも技術者育成のための重要な場になる。これが、冒頭で紹介したSIDを共催者に据えた背景の一つでもある。

2. 大型テレビからモバイルへ戦略的に舵を切る

 現在の世界のFPD産業界の関心は、大画面テレビ用の大型ディスプレイからモバイル機器用の中小型ディスプレイに移っている。FPD技術者が夢見て開発を続けてきた大画面FPDテレビは、先進国市場では既にブラウン管テレビを完全に置き換え、中国においても都市部ではほぼ置き換えの上限に近づいている。内陸部などで成長の余地は見込めるものの、以前ほどの市場拡大のスピードはない。価格低下ばかりが先行してしまった状況で、各社の収益も非常に苦しい状況にある。