前回までは、自社で新技術を開発するプロセスを説明してきました。今回は、他社を活用した新技術開発、すなわちオープン・イノベーションについて説明します。

オープン・イノベーションとは

 従来の新技術開発は、企業独自の文化や技術蓄積から生まれてくるのが普通でした。この背景として、「競争環境の中で生き残るには、ライバルより先んじて自社の優位性を確実にすることが必要だ。そのためには自らの企業秘密を死守し、独力で新しい事業や製品を開発するのが経営の常道である」という、いわゆる自前主義があったからです。しかし、開発にスピードが要求される環境になり、新たな議論が出てきています。「独自性の高い、新しい事業や技術などを自社単独で創造できるものなのか」「外部の経営資源をもっと有効に利用して、速くかつ効果的にイノベーションを創出できないか」というものです。

 米ハーバード・ビジネス・スクール教授のヘンリー・チェスブロウ氏は、従来の自前主義のイノベーションを「クローズド・イノベーション」、他力を活用するイノベーションを「オープン・イノベーション」と呼びました。同氏は半導体メーカーのインテルを例にとり、オープン・イノベーションの定義を「外部の知識・知恵を企業のイノベーション創出に利用すること」としています。インテルはご存じの通り、パソコンの心臓部にあたるマイクロプロセッサで世界第1位のメーカーです。ところが意外なことに、当初は企業内研究所を持たずに世界的なイノベーションを実現しました。彼らは、他の会社(当時はAT&T、ゼロックスなど)の基礎研究成果を活用して、その製品開発に注力しました。つまり、経営資源を「先進的な研究開発」ではなく、「先進的な製品開発」に集中させて、品質問題や製造プロセス上の課題解決に全力を挙げたのです。この戦略はうまくいき、短期間で世界的な事業拡大を実現できました。

 オープン・イノベーションの事例は、日本でも出てきています。研究開発テーマの公表はこれまで多くの企業でタブーでしたが、塩野義製薬は自社の研究開発テーマを公表し、社外から積極的な提案を求めています。産業財メーカーの旭硝子でも、同様の動きを取り始め、多くの課題を公表しました。