2011年10月に「iOS 5.0」がリリースされた時、私はある新機能が搭載されたことに小躍りしました。iPhoneやiPadの画面を「Apple TV」を通じてそのままテレビに映し出す「AirPlay ミラーリング」です。

 Apple TVには以前からもDLNAによる連携機能はありましたが、連携できるコンテンツが動画や写真など一部に限られていることもあって、いまいちの使い勝手でした。AirPlay ミラーリングを使うと、ゲームや動画共有サイト用アプリケーションなどDLNA連携では不可能だったコンテンツも大画面で楽しむことができます。ホコリをかぶっていた私のApple TVは、AirPlay ミラーリングの登場で利用頻度が格段に高まりました。

 最近、AirPlay ミラーリングのように、スマートフォンとテレビを無線で連携させる機運が高まっています。例えば、2012年5月25日にKDDIが発売する台湾HTC社製のスマートフォン「HTC J」はテレビ用アダプタ「HTC Media Link HD」で画面をテレビに出力することが可能です。NTTドコモが6~7月に発売を予定している韓国サムスン製の「Galaxy S III」も、「AllShare Cast」という名前で同様の機能を備えています。

 HDMIやMHLのケーブルでつないでも同じことはできますが、これらの方法は有線接続なので、どうしても使い勝手が限られます。そこで、HD映像を無線で飛ばす「無線HD映像伝送」を使うケースが増えているのです。今は端末メーカーが独自機能として実装していますが、今後は「Wi-Fi Display」という伝送規格がAndroid OSに標準機能として搭載されるとの話もあります。

 スマートフォンのコンテンツを大画面テレビで楽しめるのであれば、ユーザーはより多くのコンテンツを利用するようになる可能性があります。例えば、最近ではNTTドコモが月額525円で見放題の動画サービス「dマーケット VIDEOストア」の普及に力を入れていますが、このサービスのテレビCMを見るたびに「テレビでも見ることができたらいいのに」と感じるのは私だけではないでしょう。

 実際、携帯電話事業者も無線HD映像伝送には強い関心を寄せているようです。通信事業の「土管化」を回避すべく、コンテンツ・サービスの強化を進めている携帯電話事業者にとって、ユーザーのコンテンツ利用が増えるのは願ってもない話だからです。NTTドコモは2012年夏モデルの発表会場で「家でもXi」というコーナーを設け、Galaxy S IIIのAllShare Cast機能を大々的にアピールしていました。私は将来、携帯電話事業者の主導で無線HD映像伝送の普及が図られる可能性もあると見ています。

 無線HD映像伝送による連携が広く普及した時、家庭のリビングルームはどのような形に変化するか。こうした未来像と無線HD映像伝送の技術動向を、弊誌5月28日号の解説「スマホとテレビをつなぐ、無線HD映像伝送に脚光」でまとめました。ご関心を抱かれた方は、ぜひご一読いただければ幸いです。